キャンパス集中化は、学生生活や大学文化にどのような影響をもたらしているのだろうか。
　キャンパス集中化初年度の2006年度には、神田一ツ橋キャンパスに通う学生が一挙に1000人増えたこともあり、混乱が見られた。すでに校舎は改修・拡張してあったが、それでも以前に比べて学生の人口密度が格段に高くなり、エレベーターや食堂が混雑するという状況が続いた。
　キャンパスライフを快適にするために大学が採った策は、「学生モニター制度」だ。これは、各学部１、２人の学生を教員が推薦し、その学生にほかの学生から問題点や改善点をヒアリングしてもらうという仕組みだ。
　「大学文化は学生自身がつくるもの。そこで、モニター制度を通して学生の手でキャンパスをリメイクしてほしいと思った」（平井事務局長）
　「空き教室が少ない」「エレベーターがなかなか到着しない」「食堂が混雑して座れない」「八王子キャンパスより神田一ツ橋キャンパスのほうが自動販売機の値段が高い」など、様々な意見が上がってきた。大学はその一つひとつに対応策を示していった。
　例えば、本館のエレベーターの混雑に対しては、低層階の教室には階段を利用するように呼びかける一方で、停止階を２フロアごとに設定してエレベーターの運行能力を高めた。また、時間割には移動時間を確保し、離れた教室間の移動にも支障を来さないようにした。
　こうした対応策を講じた結果、学生の中から自発的な働きかけが生まれてきた。「いつの間にか、混雑時にはエレベーターホール手前のロビーで整列するようになった。これは他校舎へも伝播し、今では学内のルールとして定着している」と、入試事務室の田渕善三室長は言う。
　「混乱を避けるための総合案内を作ろうとしたが、『先輩に聞けば分かる』という学生の声で取りやめた。キャンパスが狭い分、先輩や後輩、友達に顔を合わせる機会が自然と増えた。学生間のコミュニケーションが活発になったことが良い作用を引き出している」
　サークル活動も以前より参加率が高まり、活性化しているという。

写真１　神田一ツ橋キャンパスの本館の各階にはラウンジが設けられている。学生の憩いの場となっているだけでなく、自習やグループ討論などにも利用される

　キャンパス集中化によって起きた問題を解消するもう一つの方法として共立女子大学が導入したのは、ＩＣＴだ。インターネットで情報が行き渡り、届け出や変更などの窓口申請をウェブサイト上でできるようにすれば、手続きなどで本館が混雑することが少なくなる。また、多様化する学生に対して、個別に対応できるようなシステムをつくり、教育効果を高めたいとする。
　「これまでは、知識が豊富な年配の教員、多くの助手を配置することで、きめ細かな教育を続けてきた。それを継承しつつ、集中化を起点に新しい大学文化をつくっていくためには、キャンパスが狭くなった分、システムなどの環境を整えることで、組織として学生と“One to One”の関係を構築する必要がある」と遠山事務局次長は語る。
　ＩＣＴが苦手な教員は、書面での対応も併用している。遠山事務局次長は、「大切なことは、教員の豊富な知識や考えを学生に伝授することだ。年齢や新システムへの適応度においては教員も多様であり、新しいシステムを押し付けるつもりはない。いろいろなタイプの教員がいてこそ、多様化した学生に対応できる。授業評価を通じて徐々にシステムが浸透していけばよいと考えている」と話す。