多くの理系教育課程で学士課程教育は、卒業研究、専門科目、「教養科目」のおおよそ３区分で構成されてきた。各大学で教養学部はほぼ廃止されたものの、実質的にこの区分は維持されている。中でも卒業研究は花形であり、その偏重に対する批判はあるものの、学士課程教育の要として機能している。
　例えば、本学で実施した卒業生を対象にしたインタビューでも、その教育効果は極めて高く評価されていた。おそらく多くの教員にとっても、卒業研究は最重点項目ではないだろうか。だからこそ、学部・学科等ももちろん重要であるが、教育の基本単位として研究室の存在は際立っている。
　経験的に言って、これまで研究室レベルで成員が暗黙のうちに共有する一種の相場観として、ミクロな３つの方針が存在していた。さらに、研究室のディプロマ・ポリシーは、卒業論文審査を通じてすり合わされ、学科などのメソ／マクロのディプロマ・ポリシーへと接続されていた。
　一方、カリキュラム・ポリシーは各学問分野固有の論理に従うものとして大学を越えてやはり暗黙に存在し、また、アドミッション・ポリシーは入試問題に体化され、共有されていた。
　後者２つのポリシーは、近年の大学改革の結果として具体的な文言で置き換えられつつあるものの、教育の在り方を実質的に支配しているのは、相変わらずの暗黙のポリシーであることも多い。
　過度の単純化のきらいはあるものの、このように理解してしまえば、明示的な「３つの方針に基づく大学教育」の実現という要請は、新たに事を始めるものではない。むしろ、様々なレベルで暗黙のうちに存在するポリシーを集約・結合し、公にした上で、実践するというタスクを実現することへの要請と考えられる。
　この「３つの方針」に基づく教育を実現するに当たって、ブラックボックス的であるがうまく機能してきた研究室教育のシステムを「３つの方針」によるオープンな教育運営とどう結び付けるかが最大の課題であると認識している。特に、研究室機能の一方的な縮小につながる教育改善は、角を矯（た）めて牛を殺すことになりかねないと、日日、自らを戒めている。