旗印に続き、目的や目標を明確に定める作業を開始。「10年先のヴィジョン」を「世界のプロダクトデザイン教育を先導する」と設定し、目的を「世界に通用する自立したプロダクトデザイナーを育成」「日本における存在感、世界における独自性を確固たるものにする」と定める。
　そして、その目標を「志願倍率あるいは受験者数を、５年間で倍増させる」という高いところに置く。私の仕事は「豊かで刺激的なデザイン『共育』の場づくり」と定める。
　具体的には、「コースのブランド価値を高める」ことが急務との共通認識を得た。そのためには中身の充実と同時に、外に向かっての活動を知ってもらうことが重要である。
　こうした考え方を基に「５カ年計画」の立案に取り掛かる。まず「世界に通用する自立したプロダクトデザイナー」の要件を定め、そのような学生を育てるためのカリキュラムになっているかを検証。どういうこと（科目）をどういう時期（学年）に履修すべきかを徹底的に議論した。
　そこで、縦に科目、横に学年のマップをつくり、そこに教員たちがどのようにかかわっているかのプロットをしてみると、驚いたことに、同じようなことを同じような時期に複数の教員がダブってかかわっていることが判明。教員の担当科目の配置転換や、採否などの人事にも説得力を発揮した。

　２年目はコースを専攻に変え、様々なことに取り組んだ。「５カ年計画」の立案、対外ＰＲ活動、予備校回り、卒業生と学生の交流の場づくり、専攻における産学官共同研究のプログラムなどを開始した。
　こうして、４年目には定員を1.5倍の45人とし、６年目には２倍の60人の認可を得た。受験者数は維持するにとどまるが、入学歩留まり率は格段に上昇し、さらに受験生のモチベーションや質が高まったことが何よりの収穫である。
　すでに次の「５カ年計画」は実施段階にある。前計画でのヴィジョン「世界のプロダクトデザイン教育を先導する」は今回の目標となった。前計画の展開中、専攻内での推進に限界を感じたことが２つ。１つが「大学院教育の充実」、２つには「国際交流の拡大」である。議論の末に生まれた提案「異文化相互批評が可能にする高度人材育成――閃きを誘発する国際講評会の実現」は2007年度、文部科学省大学院教育改革支援プログラムの一つに採択された。
　この７年で行ってきたことは、現場の生の声を基に専攻が心一つになれる目的や目標を定め、現実との乖離をどのように埋めていくか、それを「総合力」でどのように実現するか、に尽きる。強いて言えば、先に夢ありきであった。

　冒頭では、学舎を「家」に見立て、「３つの方針」を「入口」「屋内」「出口」ととらえ述べてきた。最後に、あえてこの課題にもう一度、言及してみたい。
　誤解を恐れずに言うと、私の考えは、「家」というより「工場」に例えたほうがよいのかもしれない。目的に合った良い材料（高校生、予備校生）を吟味して仕入れ、心を込めて付加価値を付け、社会や企業に喜んで受け入れてもらえる商品（卒業生）に仕上げる、ということになるからだ。
　工場では、最終工程の下流（仕上がり目標）を見据えながらも、常に上流を大切にする。そして各工程できちっと目標管理をしているからこそ、最終工程での検査が生きてくる。ここで言う「仕上がり目標」は、前述の「世界に通用する自立したプロダクトデザイナー」ということになる。
　「不良品を出さない」という考え方は、「良品」をいかにしてつくるかということにほかならない。「仕上がり目標」に向かって、各工程を疎（おろそ）かにせず、心を込めて次の工程に送り出す仕組みが必要となる。しかし、難しいことに、学生は製品のようにはいかない。
　個々の個性に合った良品に育ってもらうには、教員と学生のインターフェイス、すなわち前述の「共育」が必須となる。そんなわけで、私が一番腐心したことは、タイトルである「豊かで刺激的なデザイン『共育』の場づくり」であり、私の７年間の目的としたところは、企業で身に付けた「顧客満足の商品づくり」の実行であった。大学と企業の良いとこ取りをしながらの変革だったとも言える。もちろん、大学の理念である「自由と意力」を大事にしてきたことは言うまでもない。