職員から教員になった今
プロジェクトを振り返って

　本年度、私は大学職員から大学教員になった。職員時代の仕事はプロジェクト（期限と成果が明確な仕事）の連続だった。大小様々なプロジェクトの責任者を任された。プロジェクトリーダーは「想像・仮説構築」→「方法論の検討と選択」→「挑戦・実行」→「検証のサイクル」のすべてを経験できる。私は上司に恵まれ、新米職員時代からこのサイクルを経験させてもらえたため、指示待ち人間にならずに済んだ。
　私が任されたプロジェクトは、最初のものが企業と共に、次が教員部長と二人三脚で実施するものだった。大学コンソーシアム京都出向中は、高校や加盟大学の教員と、さらには、学生、経済界、行政などとも一緒に行った。このように、プロジェクト経験の多くは、教員以外との「協働」ならぬ「協同」だった。
　その結果、私は職員という枠にとらわれずに大学を俯瞰（ふかん）的に眺めることができた。また、その眺めの中から見えてきた課題に対して、自分はどのように向き合うべきかを常に考えさせられた。私にとってプロジェクトは、まさにＳＤ活動だった。そして、その先に「教員」という新たなキャリアが開発された。

　担当したプロジェクトには苦労も多かったが、充実感があった。大学コンソーシアム京都時代、多くの教員が、ボランティアに近い形にもかかわらず積極的に協力してくれた。
　振り返ってみると、事前に依頼趣旨や期待を説明した結果、個人と組織が一体となり双方の成長に貢献し合う関係（エンゲージメント）をつくることができていた。さらに、事務局と教員が「ベクトル」と「プロセス」を共有できていた。ベクトルとは目的・目標・行動指針で、プロセスとは段取りや役割分担だ。新しい取り組みには必ず反対者がいる。しかし、私はベクトルとプロセスを共有する協同者に守られていた。教員ともそんな信頼関係があった。
　つまり、エンゲージメント（Ｅ）の構築、ベクトル（Ｖ）の共有、プロセス（Ｐ）の共有という３要素を満たすことにより、「教職協同」によるプロジェクトを成功させることができたのだ。

　私は今、学生プロジェクトチームによる産学公連携プロジェクトの支援部署「プロジェクトセンター」の副センター長の職に就いている。
　このセンターの面白いところは、所属する教員と職員とが机を並べていることだ。学生支援を目的にした場合、この選択は正しい。教職員間の垣根も低くなるし、ナレッジの共有もしやすくなる。何より、規定や前例などの既存のルールに縛られず、教職員協同で学生支援のための選択肢を柔軟につくり出している。
　これからの大学は、組織の外側にある環境変化に合わせるという「ベクトル」のために、組織として学習し、内部システムを変化させるという「プロセス」を実行しなければならない。これまでの固定観念をつぶす必要も出てくる。そのためには、既存の枠組みから一度離れてみることだ。
　私は自分のことを「生粋の大学人」ではなく、「汽水魚型の大学人」と説明するときがある。私が所属するセンターは、大学における汽水域（淡水と海水が混じり合う場所）のようなものだ。たとえて言うと、職員水域からも魚が来ているし、教員水域からも魚が来ている。
　協同せざるを得ない「汽水域環境」を「愛情を持って」つくることも一計だ。教員にとって研究時間を確保しにくいという課題はある。しかし、大学人として得るものは大きいし、「エンゲージメント」はつくれるはずだ。
　自然界にある汽水域は、多様な生物の循環サイクルにより栄養に富み、生物のゆりかごとして機能していると聞く。教職員が協同するそのような環境が、大学にとっても教職員にとっても、思わぬ価値創造や成長の機会を与える場となるだろう。自身の経験から、そう思えてならない。