「学生募集」業務に
職業的プライドを持って取り組む意義

　「教職協働」という言葉を耳にしたのは、この依頼を受けた時が初めてである。概要は理解したと思うが、この問題についてどのような議論がなされ、どのような研究がなされてきたかは知らない。では、書くことがないかというと、そうでもなかろう。個人的経験に基づくエピソードは多い。20年弱の大学教員生活の中、事務職員と共同で１つのミッションに向かわなければ成立しない業務に数多く携わってきた。その経験が言わばネタ帳にあたる。そこから、教職協働関係の向かうべき方向性を考えてみたい。
　20年ほど前に遡（さかのぼ）る。当時、私は文系の博士課程の大学院生、時代はバブル絶頂期であった。70年代初頭の紛争の記憶もかなたに去り、大学は学園天国を謳歌（おうか）していた。学生にも教員にも気分的、時間的なゆとりがあった。そう、学生の目からは、大学教員は「世の中にそんな、『自由な職業』があってよいものか」と心配になるほど、眩（まぶ）しく見えた。
　その頃の事務職員の生活は見当がつかない。ただ、後日、漏れ聞いたところでは、課長クラスになれば、１日の大半、新聞を読んで過ごすような日もあったそうである。
　こんな話は事実とかけ離れた偏見かもしれない。しかし、一学生の感覚が俗世間の認識と違うはずもなく、世間の大学教職員のイメージはそんなものだったのである。ややペシミスト気味の私は、当時の先生方の姿と自分の将来を重ね合わせ、淡い期待と大いなる不安とを抱いていた。自分が目にし、住人でもあった「天国」はいつまで続くのか…？

　1999年度の国公立大学におけるアドミッションセンターの設立は、それまでの教員と職員との関係では処理できない新たな業務を表舞台に登場させた、大学にとっての新時代の幕開けとなった。同年５月に実施された東北大学アドミッションセンター（当時）の開所式記念講演会において、国立学校財務センターの天野郁夫教授（当時）が「グレイゾーン」という表現で洞察力に富む予言的な指摘をされた。記憶によれば、「従来、教員の仕事とも職員の仕事とも分類できなかった『グレイゾーン』の業務が増大し、それをどう仕分けしていくかが大きな課題となろう」といった内容であった。
　蓋を開けてみるとアドミッションセンターの業務は「グレイゾーン」の塊であった。この頃は、教員でも事務職員でもない第３の職種として「専門職」の創設に期待がかかっていたように記憶している。教員のように教育・研究を専らの職責とするのではなく、一般の事務職員のように方々の部署で大学全体の運営を経験してゼネラリストになるのでもなく、当該分野の実務を細部にわたって把握し、企画・立案から実施までを担うスペシャリストの職を大学内に置く構想である。入試では米国流のアドミッションオフィサーが構想されていたのであろう。
　東北大学アドミッションセンターにも「専門員」「専門職員」という肩書を持った事務職員が配置されていた。実は、あえて「事務職員」と書いた。それは、その職に任ぜられた者が特別の教育や訓練を受けたスペシャリストだったのではなく、一般の事務職員が課長補佐や係長相当職として任命されていたのが実態だったからである。
　「専門職」が構想倒れに終わったのは、スペシャリストのキャリアパスが描けなかったからであろう。狭い分野のエキスパートとしてキャリアアップをしていくのは難しい。数年の後、専門職の肩書は私の周辺では元来の事務組織に吸収されていった。