「学生募集」とは嫌な響きの言葉である。入試が選抜と認識されていた時代には新鮮に響いたが、今は、大学を非教育的な場におとしめるマジックワードだとさえ感じる。そこで、「高大接続」と言い換えて論じてみる。
　高大接続にかかわる業務は、広報から入試まで幅広い。一般入試は以前から大学に存在し、教員と事務職員の業務分担も明快であった。ところが、推薦入試が膨れ、ＡＯ入試も無視できないほど拡大して、境界線がはっきりしなくなった。さらに、少子化を迎えて盛んになった入試広報活動は、まさにグレイゾーンの典型といえる。２０年ほど前まで、教員と職員は別世界の住人であった。歴史的に染みついたその記憶とアイデンティティは、はがそうにも簡単にはがれるものではない。どれほど状況が変わったとしても。
　見方を変えれば、専門職構想は、教員も職員も従来の職掌を守り、新たな負担を抱え込むことを嫌って考え出した妥協の産物と言えないだろうか。そうであれば、グレイゾーンはいつまで経ってもグレイであり続け、専門職は日陰の袋小路でしかあり得ない。
　しかし、時代は変わり、大学は変わった。かつてのグレイゾーンは、もはや、教員にとっても職員にとっても大切な本来業務である。その発想の転換がなければ教職協働の話は始まらない。

　私自身は、教員と職員の垣根をなくし、分け隔てなく同じ仕事を担って云々…という発想は好まない。機能しないからである。教員と職員の職掌を峻別し、かつ、双方が誇りを持てる状況が、めざすべき教職協働の姿であると考える。高大接続が本来業務であるという認識がなく、逃げ腰でいる限り、仕事の押し付け合いになる。一連の業務を学生募集と認識する限り、アカデミックキャリアの中で専門性とともにプライドをも鍛えられた教員にとって、矜持（きょうじ）を抱かせる大切な仕事だと考えるのは難しい。学生募集は大学経営のための営業活動である。教員の仕事ではない。私自身もそう思う。逆に、職員側から見れば、教員はプライドだけ高い人間に見えるであろう。
　しかし、高大接続事業が教育的意義を帯びるならば教員が職業的プライドを持って取り組むべき本来業務となる。東北大学は広報に熱心な大学として認知されるようになった。様々な活動の中、オープンキャンパスは規模といい、内容といい、国公立大学では群を抜く評価をいただいている。たった２日間に延べ約３万6000人、大型バス約400台が集まる（2007年度）大イベントである。
　企画は各部局の担当教員が学生と一緒に考え、実施する。職員は裏方として支える。例えば、参加者数は10年弱で約６倍に膨れ上がった。交通渋滞の解消、駐車場確保といったアクセス問題だけでも難題である。
　担当職員が事前準備の中で問題を解決に導き、当日はほかの職員も総出で交通整理、資料の配布や案内業務を担う。教員は運営に徹する。教員、職員、それに学生がそれぞれ主体性を持って企画を成功に導こうとする高いモラールに支えられ、年々成長してきた。それは、私が所属する入試開発室の教員が研究の一環として行った各種の調査によって、周囲の高校教員、高校生の期待が運営側に伝わっているからである。
　この企画を体験して入学する学生は半数近くに上る。かつて客として来学した彼らが、今度は喜々として運営に回る。もし、オープンキャンパスを単なる学生募集活動としかとらえられていなかったら、この盛り上がりはなかったであろう。大学の社会貢献であり、教育活動としての位置付けがあった上で、結果的に学生募集機能を果たしている。その誇りと自信がある限り、少々大変でも個々の職責を全うしようという意識が生まれてくる。もちろん、教職一体となって毎年、問題点を洗い直すが、職員にオープンキャンパス内容の企画を任せるべきではないし、教員が裏方を担うのもまずい。参加者が抱く大学教員のイメージを壊してはいけない。
　高大接続関連活動で、教員と職員の関係がおかしくなる場合もある。積極的に語りたくはないが、目的や効果が不明確な業務に無理に付き合わされる場合である。そうなるにはそれぞれ原因がある。最初の発想や企画自体が悪い場合などである。
　良好で健全な教職協働関係を保つには、相互の役割を認識した上で、それぞれが職責を全うする能力を持つことに加え、相互の役割の基本的理解と相手に対する尊敬が必要である。かつて、大学教員は憧れの職であり、大学職員も魅力的な職であった。我々を見ている若者に、以前とは違った意味で同じ思いを抱いてもらうため、互いに誇りを抱いて生き生きと仕事をしたい。