山口理事長は、「『東京都市大学』への名称変更は様々な諸改革の集成を象徴するものである。新名称には『東京と横浜という世界有数の大都市に立地するキャンパスが学びのステージである』という意味、そして『都市とは、未知の世界、未来へ向かって挑戦するための、多様性と可能性に満ちた夢のある空間である』という意味が込められている。この未来志向こそが、『都市大グループ』の各校が共通に持つ価値観なのだ」と説明する。
　大学名の改称に伴い、武蔵工業大学と東横学園の付属に分かれていた高校、中学校、小学校、幼稚園の名称にも「東京都市大学」を冠し、東京都市大学の付属学校として統一した。そこには、グループ内の連帯感を強めるとともに、高大連携や一貫教育などを推進する意図がある。
　高大連携の具体的な制度としては、これまで行われてきた大学教員による付属校での出前授業に加え、高校生の大学講義の聴講、大学教員と高校教員による共同研究・研修などを整える。さらに、2012年度をめどとして、原則的に希望者が全員入学できる付属高校推薦制度の導入も検討している。
　大学から幼稚園までを擁する法人ならではの教育・研究も充実させる考えだ。すでに、武蔵工業大学の研究室と企業の共同研究として、グループ内の幼稚園と協力し、ロボットと幼児のコミュニケーションの可能性を探る研究を進めている。

　グループ内の改革と並行して進めているのが、他大学との包括連携協定だ。
　「法人内での連携強化に加え、対外的なコラボレーションを進めることは、厳しい学校間競争を勝ち抜くための重要な取り組み」と、山口理事長は意欲的に語る。
　2007年12月には、室蘭工業大学との間に包括連携協定を締結した。都市部の私立大学と地方の国立大学との連携事業は、同法人によると全国初であり、文部科学省は「大学・大学院の教育と研究を活性化するためのモデルケースの一つ」として支援する姿勢を示しているという。
　この連携の背景には、両大学とも歴史のある工業系大学であり、「水素」の分野で先駆的な研究を進めているという共通点がある。2007年２月に室蘭市や室蘭工業大学などが主催した水素エネルギーに関するシンポジウムに、武蔵工業大学の中村英夫学長が参加したことをきっかけに、連携の話が持ち上がった。
　両大学は、共同研究の推進に加え、教職員や学生の交流、研究集会の実施、学術・教育関連資料や刊行物の共有、地域経済の産業振興、さらには就職活動の相互支援など、非常に幅広い分野での連携を進めている。
　続いて2008年３月には、多摩美術大学、ならびに昭和大学と包括連携協定の締結を発表した。
　多摩美術大学との連携には、工学部建築学科や環境情報学部などにおいて、工学に芸術を融合させて新しい教育研究プログラムを開発するというねらいがある。東横学園女子短期大学から引き継がれ、2009年度に新設される都市生活学部においても、多摩美術大学が得意とするインダストリアルデザインやインテリアデザインといった分野との連携を図り、新学部の教育を充実させていきたい考えだ。
　一方、昭和大学との連携は、近年、注目される「医工連携」の推進が最大のねらいだ。武蔵工業大学は2007年度に生体医工学科を新設したが、もともと医学部が設置されていないために実際の医療現場を持たない。それだけに、医学部、歯学部、薬学部、保健医療学部を擁する医系総合大学である昭和大学との連携による利点は多く、大きな期待が寄せられる。

　東京都市大学の方向性を検討する「ブランドヴィジョン委員会」（委員長・中村学長）は、「科学を基盤にサステナブル（持続可能）な社会発展を目指す」という新たな理念を策定した。そこには、総合大学としての強みを生かして、科学技術やエネルギー、情報、環境、福祉などの広範囲にわたって社会発展に寄与する人材を育成したいという思いが込められている。「ブランドヴィジョン」を基に、今後、具体的な戦略を講じていく方針だ。
　「都市大グループとなっても、これまでの良き伝統を生かしながら、改革のスピードを鈍らせることなく、教育力を高め、時代のニーズと、社会・地域の期待に応えていきたい」と、山口理事長は、さらにグループとしての総合力を高めていく姿勢を示している。