受賞者の優れた取り組みは、どのように学内で共有されているのか。
　受賞者は全員、学内で公開授業を行う。その後の検討会で教材や手法などに関する情報を提供し、質疑応答もする。また、学内広報誌で、受賞者の授業方法や授業に対する意識などを紹介している。学部別の取り組みとしては、工学部が、年１、２回開催するＦＤシンポジウムで、工学部所属の受賞者による講演を行っている。
　授業評価アンケートは、授業改善にも活用する。分析結果をまとめた冊子を全教員に配付し、学内における自分の評価の位置付けを把握するように促す。学生が記入したアンケート用紙は、その授業を担当する教員に渡し、「授業評価に基づく自己点検票」の作成に役立てる。アンケートの自由記述欄に記述された学生の意見や要望を直接見てほしいからだ。
　授業評価アンケートの導入に際し、教員には、授業の到達目標を明確にして事前に学生に伝えるよう指示。鈴木邦雄副学長（教育担当）は、「目標と評価は表裏一体の関係にある。目標がはっきりしていれば、『学生は目標に到達できたか』『教員は目標に向けて十分な努力をしたか』などと評価しやすくなる」と、そのねらいを説明する。
　一連の取り組みは、教員の意識を変えつつある。以前は「学生主体」の意識に欠け、「授業が理解できないのは学生の努力不足」ととらえたり、授業評価アンケートに対して抵抗感を示したりする教員が見られた。しかし、全学的な授業評価アンケートの実施から３年を経て、「評価を受けることを前提に授業を行う」という意識が、教員の間に確実に浸透しつつある。

　授業評価アンケートやベストティーチャー賞は、ほかのＦＤ活動とも関連している。横浜国立大学では、ＦＤ推進部の設置以後、ＦＤ活動が充実した。ＦＤ合宿研修や年4回のニュースレターの発行、新規採用の教員に対する講習会などを導入。さらに、2008年度は、ウェブサイトを通した全学統一シラバスの公開、授業改善セミナーや情報機器活用のための講習会開催などを、大学としての年度計画に掲げる。
　「多様なＦＤ活動を通して教育の質向上に対する意識が高まれば、教員は授業評価アンケートを積極的に活用しようという気持ちになり、ベストティーチャー賞はその目標になる。逆に意識が低ければ、『単に評価されているだけ』という考えに陥りかねない」と、鈴木副学長は説明する。
　もっとも、教員一人ひとりの努力だけでは、教育改善の成果には限界がある。学内で、教員が協働して教育の質向上を図る動きが自発的に起きているのは、教員間にＦＤに対する意識が浸透しつつある表れだといえる。
　例えば、工学部の土木工学コースでは、10人の教員がカリキュラムに関する会議を自主的に開催。教育の質向上を図り、カリキュラムが日本技術者教育認定機構（JABEE）の認定を受けられるように準備を進めている。こうした自然発生的なＦＤの機会を増やすために、ＦＤ推進部では、これまで以上にＦＤ活動のリーダーの育成に力を入れていく方針だ。
　2005年度には、成績優秀な学生を表彰する制度も導入。「ＳＤ活動の一環として、職員表彰の制度を設けることも考えたい」と、鈴木副学長は意気込む。
　評価すべきことは正当に評価する。そのような方針から生み出されるインセンティブは、同大学が教育改革を推進する原動力の一つとなりつつある。