質の高い学士課程教育実現のために
学長は何をなすべきか

　最近よく行われている「大学にかかわる調査」の項目の多くには、大学教育の「エクセレンス＊１」の視点が表現されている。このような調査の項目は、一言でいえば、大学の価値を一般化して示すものである。今や、通例のような評価項目に対応する実践は、学士課程教育としては当然の営みで、常識化しているといえよう。
　すなわち、それらの項目を達成することは、いわば最低基準を満たすという意味合いに過ぎない。すなわち、「一般的評価項目の内容以上のことを、自分の大学における教育では達成している」という自負、誇りが学長になければならない。
　そのことを別の次元で問えば、自己の大学の理念に対するコミットメントである。学長に求められる第一の要件は、所属大学の理念に対する確信である。自己の大学の教育理念に対する献身である。そこからすべては始まる。その確信が、自分の大学の構成員に、大学共同体形成の意識を呼び起こす基盤になるのである。教育は共同で達成されるものである。そういう共同の営みの形成は学長の課題である。

　中央教育審議会の「学士課程教育の構築に向けて（答申）」案には、「三つの方針」が提示されている。すなわち、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーとアドミッション・ポリシーである。
　この「三つの方針」の記述の順序に意味がある。まず問われるのは、ディプロマ・ポリシーである。直接的には、各大学の教育の付加価値を明確にすることであり、一般的にいえば各大学の教育像の提示である。
　ただ「大学をやっている」ということでは済まされない。学長はディプロマ・ポリシーを明確にして、それを大学構成員と共有することに努める。そして、ディプロマ・ポリシーの成果（アウトプット）を社会に広報できなければならない。「大学広報」の責任は、学長が主導するのである。当然にもそういう大学広報は、アウトプットの評価に基づかなければならない。
　アウトプットの提示と評価に基づいて、カリキュラム・ポリシーが策定される。さらにカリキュラムは、卒業生（アウトプット）と入学生（インプット）の関数として定められる。特に、今日のような大学のユニバーサル化時代にあっては、「入学生」という変数は重要であるが、中教審の答申案では、「入学生」を変数とは見ていない傾向がある。何か標準的な「入学生」像を想定して議論が進行しているきらいがある。
　現実の大学のマネジメントでは、「入学生」像は大学ごとに多様であり、一つの大学の「入学生」像についても幅がある。そういう認識に立って、アウトカムを達成するカリキュラム・ポリシーが定められなくては、すべては無意味になる。そこで重要なのが、インプットの認識である。そのため、初年次の学生調査は重要な意味を持つ。調査結果に基づいて、教育政策を提示し、教学マネジメントを実行することが、学長には求められる。学長は、学生調査に基づいて、インプットについての認識を常に新たにしつつ、教学マネジメントに携わるのである。