大学の教員であるということは、自己の専門分野の進展に常にかかわっていることを意味する。そういう存在様式を認めることが、大学の質を形成するのである。しかし、そのようなあり方が、ややもすれば研究至上主義になりがちであることを認識し、主任務が教育であることを教員に同意させる役割を、学長が担わなければならない。
　大学は研究組織ではなく、教育組織である、と私は考える。教育が教員の主たる任務であることを、学長は常に強調しなければならない。そのためには、任用契約制度を定めるとよい。日本では、教員の任用の際に、大学（理事長、学長）と教員とが契約書を取り交わすことは、これまで慣行になっていない。両者の間には暗黙の了解が成立しているという認識であった。しかし、これからは、契約書において、大学教員の教育責任を明確にすることが必要である。
　それには、教員評価の内容の明示を伴う。例えば、研究業績評価を40％、教育貢献評価を40％、大学運営への貢献評価を20％とする。このような割合は、それぞれの大学のあり方によって定められるものである。そういう条件を明示して、学長は任用教員の教育に対する責任について確認を求めることが必要なのである。
　教育貢献評価を重視するためには、教員が教育に熱心に取り組めるような環境づくりが必要になる。その対応の一つは、教育貢献に対する報奨制度を定め、教育成果を挙げるよう教員を支援することである。
　今年度、ＦＤが大学設置基準で義務化された。ＦＤ活動に参加することは教員の義務であるが、学長の立場からは、ＦＤとは教員の教育能力向上の支援活動でなければならない。従って、学長の責任は、教育能力向上のために教員を支援する体制をつくることであり、まず、「ＦＤの実施は学長の職務である」と認識することが重要である。