新しい形の大学間連携で
教育改革を推進

　2004年、山形大学は県内の大学・短大と連携し、「地域ネットワークFD“樹氷”」（以下“樹氷”）を立ち上げた。参加したのは、山形大学、山形県立保健医療大学、東北公益文科大学、山形県立米沢女子短期大学、羽陽学園短期大学、山形短期大学の計6校だった。
　山形県の大学進学率は全国平均と比べると低い。また、大学・短大間のつながりが弱く、情報共有がほとんどできていなかった。このような状況に対する問題意識から、FDを軸とした連携によって県内の大学・短大の教育力を底上げするのがねらいだった。山形大学高等教育研究企画センターの小田隆治教授は「県内の大学・短大の連携を図り、地域教育に貢献したいと考えた」と語る。
　この連携は同年、現代GPに採択された。運営組織の中心となるのは、各大学の教員1人ずつが委員を務める「FD協議会“樹氷”」だ。さらに、教育研究の質向上を目的とする「高等教育研究企画センター」、FDの推進に特化した「教育企画係」など、山形大学内の事務組織が活動を支えた。委員は各自の大学・短大に審議内容を持ち帰って、検討。可決後は、速やかに実行に移された。

　2008年、“樹氷”は発展的解消を遂げ、代わって「FDネットワーク“つばさ”」（以下“つばさ”）が設立された。対象を山形県内から東日本全域に広げ、より多くの大学・短大とFDに関する研究・開発を共有している。今まで以上の成果を得ることがねらいで、より広い地域の大学・短大にFDを浸透させ、日本の高等教育の質向上を図りたいという意識も強い。
　参加校は、北海道から関東地方まで35大学・短大・高専に広がっている（９月現在）。活動の中心は、“樹氷”と同様、学生への「授業評価アンケート」と「公開授業と検討会」だ。2000年度からすでにこれらの取り組みを導入している山形大学が、ノウハウを各大学に伝授した。
　「授業評価アンケート」の内容や集計作業には、山形大学が開発した共通フォーマットを活用。講義ごとの集計結果は、冊子や学内掲示板などを通して公表される。授業評価の可視化によって情報共有が容易になり、教育改善が進んだ。また、学生による自由記述を非公開情報として各教員にフィードバックし、教員は授業改善案の作成に役立てている。
　「公開授業と検討会」では、担当教員が授業を公開し、他の大学・短大の教員も含めた参観者が、教授法や学生の様子などについて意見を述べ合う。
　そのほか、教養教育カリキュラムの共同開発、eラーニングを活用した単位互換制度、学生モニターによる大学生FD会議や教職員のFDワークショップなども積極的に展開している。
　小規模な単科大学や短大が、本格的なFD活動に着手するには困難を伴うが、“つばさ”のようなネットワークが、FDを各大学・短大に根付かせることを可能にする。また、山形大学にとっても、コストダウンや他大学の情報収集などの利点を生む。現在は対象を東日本に限っているが、今後は西日本にも範囲を広げていく考えだ。