敗戦直後の1946年にやって来たアメリカ教育使節団が、日本の高等教育について何より問題にしたのは、「職業主義」であった。「使節団報告書」は、次のように述べている。
　「日本の高等教育のカリキュラムにおいては（中略）普通教育を施す機会が余りに少なく、その専門化が余りに早くまた余りに狭すぎ、そして職業的色彩が余りに強すぎるように思われる。自由な思考をなすためのいっそう多くの背景と、職業的訓練の基づくべきいっそうのすぐれた基礎とを与えるために、さらに広大な人文学的態度を養成すべきである（中略）普通教育は、学生がそれを満足な形においてじゅうぶん受け、それをなにか特別の分離したものと考えることのないように、各学生に決められた正規のカリキュラムの中に、統合されるべきである」。
　ここでいう「普通教育」とは、アメリカの大学でいう「一般教育」（ジェネラル・エデュケーション）のことである。「一般教育」は、アメリカの私立カレッジに特徴的な、中流以上の市民の育成という、強い階級性をもった「自由（教養）教育」（リベラルアーツ・エデュケーション）に対する批判から、「現代人として必要な一般教養」を与えるためにつくられた、専門教育や職業教育と有機的に結び付いた、州立大学に一般的な教育課程である。
　1948（昭和23）年から1949年にかけて一斉に発足した「新制大学」に導入されたのは、その一般教育の考え方であり、４年間の学部教育は一般教育・専門教育各２年を原則に編成されることになった。その一般教育が「一般教養教育」や「教養教育」と呼ばれ、一般教育課程が「教養課程」、それを担当する組織が「教養部」と呼ばれるようになる。「教養」とは、「教養教育」とは何かという議論に立った、明確な理念を持つ呼称ではなかったことに注目すべきだろう。法規上の正式名称はあくまでも「一般教育」であった。
　いずれにせよ、一般教育の登場によって、旧制高等学校と結び付いた中流階級の教養としての「高等普通教育」は否定され、旧制高等学校自体が姿を消し、高等普通教育は「新制高等学校」の教育目的に、いわば格下げされてしまったのである。