教育力向上をめざす大学ブランディング

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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ブランドの物語を従業員が現場で体現

 現場で体現されるべき「物語」とはどのようなものか。ザ・リッツ・カールトン大阪での出来事を例に説明したい。
 ある懇親会に出席するお客様が、名刺を5枚しか持っていなくて困っていることを、クロークの従業員に告げた。その従業員は、すぐにお客様から名刺を借り受け、カラーコピーで複製してお客様に渡した。お客様は喜び、「ホテルの従業員がこんな対応をしてくれた」と話しながら出席者と名刺交換をしたという。懇親会で最も多く名刺交換をしたのは、このお客様だったようだ。この日の対応は顧客の間でも評判になった。
 このとき対応した従業員は、入社してわずか3か月の契約社員だったが、リッツ・カールトンの理念を現場で物語として体現した好例といえよう。
 リッツ・カールトンでは、こうした物語が日々生まれる。従業員が物語を共有し、次の物語を生み出す。すべてのミッションや理念を頭で覚えることは難しいかもしれないが、現場で実践することはできる。
 名刺のコピーのエピソードに出てくるような判断ができ、リッツ・カールトンの価値を体現できる「独立した個人」を育てることが、ブランディングにつながる。
 従業員一人ひとりがブランドの価値を意識すれば、自らがブランドになっていく。特にリーダーは、自分自身がリッツ・カールトンの理念を体現した生き方を部下に示す必要がある。

行動との一致によって心に届くメッセージ

 ブランディングを行ううえでのリーダーの役割は、逃げたくなるようなことでも、最後までやり続ける勇気を持つことだ。私たちは、行うべきことを「300度の熱で(部下に)伝えよう」と決めている。300度の熱で伝えれば、たとえ伝わるときに温度が下がったとしても、100度の熱で伝わるはずだ。
 しかし、会社の発信するメッセージと行動に乖離(かいり)があっては、メッセージは従業員の心に届かない。普段は「お客様第一」を掲げているのに、会議になると売り上げのことばかり言うような会社では、従業員はお客様よりも売り上げが大切だと考えてしまう。
 そのような状態で一時的に売り上げが伸びたとしても、従業員の輝きは失われてしまうだろう。口に出していることと行動の優先順位は合っているか。それを常に確認することが、ブランディングにおいては非常に重要だ。


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