現場で体現されるべき「物語」とはどのようなものか。ザ・リッツ・カールトン大阪での出来事を例に説明したい。
ある懇親会に出席するお客様が、名刺を5枚しか持っていなくて困っていることを、クロークの従業員に告げた。その従業員は、すぐにお客様から名刺を借り受け、カラーコピーで複製してお客様に渡した。お客様は喜び、「ホテルの従業員がこんな対応をしてくれた」と話しながら出席者と名刺交換をしたという。懇親会で最も多く名刺交換をしたのは、このお客様だったようだ。この日の対応は顧客の間でも評判になった。
このとき対応した従業員は、入社してわずか3か月の契約社員だったが、リッツ・カールトンの理念を現場で物語として体現した好例といえよう。
リッツ・カールトンでは、こうした物語が日々生まれる。従業員が物語を共有し、次の物語を生み出す。すべてのミッションや理念を頭で覚えることは難しいかもしれないが、現場で実践することはできる。
名刺のコピーのエピソードに出てくるような判断ができ、リッツ・カールトンの価値を体現できる「独立した個人」を育てることが、ブランディングにつながる。
従業員一人ひとりがブランドの価値を意識すれば、自らがブランドになっていく。特にリーダーは、自分自身がリッツ・カールトンの理念を体現した生き方を部下に示す必要がある。
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