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Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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一貫性のあるキャリア教育を実現するためにすべきこと

一般・専門科目による意識形成が本来の姿

大阪府・大学職員/S.F.


「キャリア教育」の定義は何か。
 1999年に中央教育審議会が発表した「初等中等教育と高等教育との接続の改善について(答申)」では、「望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育」とされている。
 また、「勤労観・職業観」については、2002年に国立教育政策研究所が出した「児童生徒の職業観・勤労観を育む教育の推進について」の中で、「職業や勤労についての知識・理解及びそれらが人生で果たす意義や役割についての個々人の認識であり、職業・勤労に対する見方・考え方、態度等を内容とする価値観」と定義付けられている。
 つまり、キャリア教育とは、職業・勤労に対する考え方や、自分自身がそれらにどうかかわるべきかといった、学生・生徒・児童一人ひとりの認識を形成することであり、価値観を形成することであるといえる。
 大学であれば「どの業種を選択するのか」「どの会社を選択するのか」、高校であれば「どの学部に進学するのか」「どの職業をめざすのか」というような「出口論」だけではなく、その前段にある物事のとらえ方、課題や問題点の核を発見する力を育成することが、キャリア教育の原点ではないだろうか。
 もし、こういったことを抜きにしてキャリア教育を実施すると、そこで形成される職業理解や勤労観は、逆に将来の幅を狭めてしまう。めざすべきは、「キャリア教育」として特別にプログラムされたものではなく、学士課程教育において、一般教育や専門教育の中で職業理解や勤労観を培うことだと考える。
 近年、各大学において「就職センター」や「キャリアセンター」が主体となって取り組んでいるプログラムは、正課としての学士課程教育と有機的な連携を図ることによって、最大の効果が生まれると思われる。
 必ずしも、キャリア教育プログラムを正課科目にすべきだということではない。各学部のカリキュラムを主体とした教育によってキャリア意識を形成することが、キャリア教育のあり方だという考えに基づいている。リベラルな考え方、クリティカルな見方、論理的な思考などを正課科目から得られるというのが、本来の姿ではないだろうか。
 こうしたことが、学士課程教育の実質化にもつながるべきであろう。




複数部署が連携しトップダウンで推進

大阪府・大学職員/Y.O.


キャリア教育は、学生がより良い将来を築くために必要不可欠な教育である。学生は、いつかは卒業し、多くは就職する。入学してすぐに、卒業後どうするのかを考えても仕方がないという意見もある。しかし、卒業まで将来について何も考えずに過ごしてしまうと、「あの時、こうしておけばよかった」と後悔することにもなりかねない。そうならないためにも、在学中に将来像を描かせること、つまり、キャリア教育は大切である。
 キャリアというと、「就職活動」が思い浮かぶ。就職活動をするためには、どこへ就職したいのか、そもそも自分が何をしたいのかを、自分で知っておく必要がある。どのようなことをしている自分に意味を見いだし、社会に役立っていると実感できるのか、自己イメージをすることが大切である。
 一方、希望する就職先について現実的な情報を集めておくことも必要である。期待と現実とのギャップが大きすぎると、結局、入社後に仕事が長続きせず、辞めてしまうことになりかねない。
 最初の就職活動だけが、キャリア教育と関係があるわけではない。就職は人生の一つの節目だが、後に転職することもあれば、同じ会社の中での昇進や転勤、職種変更もあり得る。キャリアは生涯のテーマであり、キャリアを考えることにより、それまで気づかなかった自分の可能性や生き方に気づくきっかけを得られるかもしれない。
 このように考えると、キャリア教育には、さまざまな要素が必要になる。就職活動支援にとどまらず、キャリアに関する講義、実際に自己イメージしてもらう講座、ワークショップなど、多くの支援が可能である。これを組織の面で考えると、1つの部署では対応できないことに気づかされる。同時に、これらの支援が個々に完結しているよりも、相互に関連性があり、全体として計画的に実施された結果、完結するほうが、より効果的なキャリア教育を行うことができると思われる。
 一貫性のあるキャリア教育を行うには、専門家を置くことも重要となるだろう。それに加え、各学部の理解と複数部署の連携が必要だと思われる。キャリア教育の実施を担当部署のみにとどめず、全学的な了承を得るか、組織のリーダー(例えば学長)の下、トップダウンで推進していくことが必要ではないだろうか。


参考図書/金井壽宏著『働くひとのためのキャリア・デザイン』(PHP研究所、2002年)

※アンケート回答者のうち2人に別途、執筆を依頼して掲載。

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