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Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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学生と卒業生の 接点づくりが重要

 卒業生に対して積極的に働きかけ始めた大学からは、しばしば「思うような手応えを得られない」という声が聞かれる。こうした状況を打開するためには、どのような観点が求められるだろうか。
 卒業生との良好な関係構築には、受験生、在学生という前段階も視野に入れた長期的、継続的な働きかけが必要と考えられる。校友課長などを務め、卒業生施策に長く携わった立命館大学総合理工学院の志垣陽事務室長は、「在学中から卒業生ネットワークの中で過ごすことの付加価値を実感させるしくみが重要」と指摘する。
 キャリア支援をはじめとするさまざまな施策の中で、学生が卒業生と接し共感すれば、自分も卒業後、大学や後輩に積極的にかかわろうという意識が生まれるはずだ。「こうしたプロセスがないまま、卒業後、大学が一方的な寄附依頼の文書を送っても反応がないのは当然」と、志垣室長。まずは、同窓会など母校支援に積極的な卒業生の協力を得て学生との接点を密にすることが考えられる。
 卒業生に一方的な支援を期待するのではなく、大学も卒業生を生涯にわたって支援するという姿勢を示し、それが在学中から自然に伝わることも重要といえる。
 卒業生とのかかわり方は、大学の特性やめざす方向性によって多様であるはずだ。先に①〜⑦で示した卒業生の財産的価値の中でどのような側面を重視するかによって、コミュニケーションの形態も違ってくる。
 例えば、教育や学生サービスに対する卒業生の評価を改善につなげたいのであれば、調査への協力を得ることが考えられる。社会人大学院における卒業生の再教育を重視する場合は、一般向けの募集広報とは別に、自学の教育の特色を理解していることを前提とした情報発信について検討すべきだろう。
 大学が伝えたいことの発信に終始するのではなく、卒業生の側が求める情報についての感度を上げ、ニーズに応えることが重要だ。送られてくる情報が自分の興味を満たす内容であれば、母校とのつながりを維持するために、住所やメールアドレスの変更を届けようと考えるだろう。
 個人情報の提供に慎重な人が増え、景気低迷で同窓会からの経済支援が厳しくなるなど、大学は逆風ともいえる状況に直面している。しかし、こうした厳しい環境を逆手に取り、今こそ、母校は卒業生のために何ができるかという観点から関係を結び直すべきではないだろうか。
 大学がめざす方向性とそのための施策、それらが卒業生にもたらすメリットを伝えてビジョンを共有することが、コミュニケーションの軸になると考えられる。卒業生がビジョンに共感し、母校への信頼が高まれば、経済的な次元にとどまらない真の協力関係、パートナーシップが築けるはずだ。


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