大学ブランディング成功への道

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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他企業、顧客を巻き込む集まりブランディング

 20世紀後半から、経済のグローバル化、知識・情報依存の高まり、知識労働者の流動化、消費者の多様化など、急激な変化が起きている。モノが人間の生活スタイルをつくる時代(自動車や電化製品はその典型といえる)は終わり、個人の多様な生活スタイルがその表現ツールとしてモノを規定する時代に入っている。
  このような時代、イノベーションは企業人(閉じた組織の中での等質性の高い人材)ではなく、むしろ組織の外に散らばる多様な個人の知恵によって生み出されるのである。したがって、新しい価値の創出は、組織を超えて、多様な個人の知恵を「集まり」としてマネジメントできるかどうかにかかっている。
  新しい時代の集まりマネジメントで高い価値を生み出している企業の一つが、携帯音楽プレイヤーのiPodやスタイリッシュなパソコンMacintoshで有名なアップルである。
  同じ携帯音楽プレイヤーでありながら、アップルのiPodとソニーのWALKMANには大きな違いがある。WALKMANの競争力はモノの品質にあるが、iPodの競争力は音楽や情報、ソフトを自由にダウンロードできるiTunesというプラットフォームにある。
  iTunesには大手音楽レーベルなどの企業だけではなく、(これまでなら消費者に過ぎない)個人ユーザーも参加できる。実際に多くのiPodやiPhone(携帯電話)ユーザーが、これらの機器で使えるソフトをiTunes経由で世界中に向け販売している。
  アップルだけではない。グーグルやナイキなどの新進ブランドでは、商品の購入はもはや「消費」ではない。商品が媒介する集まりへの「賛意」であり、価値創造ムーブメントへの「参加」表明なのだ。
  そして、集まりはさらに新たな集まりを生み出し始める。アップルは現在、アメリカ国内の著名な大学と提携し、学術コンテンツを誰もが無料でダウンロードできるiTunes Uというサービスを運営している。高度情報化社会において、開放的な集まりが持つ成長力は、企業内の閉じたヒトづくりの成長力をはるかに上回っているのである。
  日本にもNTTドコモのi-modeというプラットフォームがあり、ブランドとして大きく成長したが、それもドコモ単独の開発力によるものではない。i-modeというブランドを旗印にした、コンテンツ提供企業などの集まりが生み出す、多様で自由な化学反応によるものなのである。
  ただし、i-modeの集まりはあくまで企業間の連携であり、消費者はその輪の外に置かれている。ユーザーまでもその集まりの輪に組み込むアップルの集まりマネジメントの徹底こそが、アップルという小さなガレージメーカーを世界的なブランドに押し上げたのである。
  ユーザーをも巻き込む開かれた集まりをつくれないことが、日本で新しいブランド企業が生まれない要因といえる。
  新しい時代に価値を生み出すのは「集まり」である。そして、その集まりの力を最大限に引き出すために、外部の企業や顧客などの個人といかに連携するかが、現代のマネジメントの重要な課題なのである。開放的な集まりでは、企業内の集まりと違って、意識の共有が難しい。そこで、「集まりの旗印となるブランド」を掲げることが重要となる。
  つまり、「集まり」と「ブランド」を有機的に結合させ、成長させる「集まりブランディング」が、これからの時代に即応した価値を生み出すマネジメントの核になるのである。


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