特集
山下研一

やました・けんいち

東京大学農学部農業生物学科卒業。企画会社「クリエイトハウス」経営を経て1997年から学校法人聖学院に勤務。1998年広報センター所長、2009年聖学院大学広報企画部部長を兼務。

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
  PAGE 41/52 前ページ 次ページ

大学現場の視点

少人数教育で伸びる学生を求め
「選抜」から「発見」へと発想を転換


聖学院大学広報企画部部長 山下研一

新学習指導要領でさらに重視されるキャリア教育

 聖学院大学は、創立10年目の1998年に本格的な入試改革をスタートさせた。背景には、少子化による受験生数の減少と、学生の質の低下という問題があった。
  1998年の時点では、まだ全国的に見て受験生の数が大学の収容定員を上回っていたので、受験生は偏差値の高い大学から低い大学へ流れていく状況にあった。しかし、大学全入が予測されていた2007年度入試までには、待っていれば受験生が流れてくるということはなくなり、定員割れを起こす大学が続出し、大学淘汰の時代を迎えると考えられた。
  そこで本学がめざしたのは、志願者の数を競う選抜型の入試ではなく、大規模大学がまねできない少人数教育という特色を前面に出した入試をつくることであった。それによって、本学に合った入学者を確保したいと考えた。その結果、少人数教育の中で伸びる資質を持つ受験生を「見いだす」入試として、1998年にAO入試の前段階となる「自己アピール入試」をスタート。これに手を加え、AO入試元年と呼ばれる2000年より1年早い1999年に、AO入試を導入した。

聖学院大学の推薦・AO入試の入学者数

 本学に合った学生とは、本学の教育でこそ最も大きな伸びが期待できる学生である。それは、コミュニケーション能力が高く、職場で潤滑油のような役割を果たしている多くの卒業生に象徴される。彼らは、少人数によるコミュニケーションを大事にした教育に適した、「じっくりと付き合うことで良さが見いだされる」「認めてあげるとやる気が出る」学生であった。こうした学生像を入試に取り入れたのが本学のAO入試である。
  教育の中でまだ日が当たらず、芽が伸びずに埋もれている生徒は、実はどの高校にも少なからずいる。そのことに気づいたのは、大発見であった。彼らは、その時点での学力試験による「選抜」では発見できない。そのような高校生に照準を合わせた入試と、入学後に伸ばすしくみがあれば、必ず社会から評価を得られると信じて改革を進めてきた。
  まず、本学のAO入試の考え方を高校に理解してもらうことが大切と考え、アドミッション・ポリシーを丁寧に説明して歩いた。「面倒見のよい大学。入って伸びる大学。」という標語(キャッチフレーズ)を作り、本学が伸ばすことができると考える学生像を具体的に伝える努力を、高校訪問と大学説明会で根気強く行ったのである。
  「高校の先生対象のオープンキャンパス」と位置付けた大学説明会では、とりわけデータの公開に力を入れている。具体的には、入試方式ごとの志願者数、志願倍率、入試問題と正答率、合格最低点、入学者数などの入試データ、教務関係、財務、就職率、就職先などのデータである。こうした活動によって、聖学院大学のAO入試の考え方は次第に理解されるようになった。


  PAGE 41/52 前ページ 次ページ
目次へもどる
大学・短大向けトップへ