大学ブランディング成功への道

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
  PAGE 3/5 前ページ 次ページ

受験生の関心の対象は大学? それとも学部?

 大学におけるブランディングでも、第一歩としてブランドの設定単位を見直すべきではないか。この課題について順を追って考える。

①大学という制度を、そのまま無条件にブランドの単位と考えない
 「この大学に入れるならどの学部でもいい」と受験生が思っているなら、ブランドの単位は大学にすべきである。しかし、そのような大学は少数ではないか。「何を学べるか」に受験生の関心があるのなら、訴求するブランドは学部単位で設定すべきであろう。学生の関心がキャリアづくりに傾くのなら、キャリアサポートを充実させるだけではなく、キャリアサポートをブランド化すべきである。関心こそが単位なのだ。

②関心に基づく集まりのブランド名には決して普通名詞を使用しない
 企業は、自社のブランドが普通名詞化することを嫌う。「セロテープ」(ニチバンの登録商標)のように普通名詞化すると、特定の企業の商品を買う意味が著しく損なわれ、無益な競争に巻き込まれるからだ。
 一方、大学の学部名は、「文学部」や「経済学部」のように、普通名詞を冠するものがほとんどである。これでは「他でもないこの大学」に集まる意味が伝わりにくい。もちろん、大学の場合、設置認可制度の壁はあるだろう。であれば、正式名称(制度の名前)とは別に、顧客との集まりを表す愛称(関心の名前)をブランド化すればいいのだ。学部の愛称やロゴデザイン、ショルダーフレーズ(日立製作所の"Inspire the Next"のように中期的に使われるキャッチフレーズ)など、ブランドを表現する方法は多様にある。固有のシンボルこそがブランドなのだ。

③ブランド名は、その集まりの中心に誰を置くかで発想すべき
 学部という集まりの中心に研究者である教員を据えた場合、「学問」こそが主たる関心となり、ブランド名となる。その例が「経済学部」で、これは今の学部名の付け方と基本的に変わらない。日本や世界をリードする大学なら、この方法も有効である。しかし、多くの大学にとっては偏差値等の一元的な土俵での無益な競争に陥る危険がある。
 そこで、学生を中心に据えて発想してみたらどうだろう。彼らにとっては「学問」だけでなく、「自分の大学」(教員と違い大学を移ることが難しい)、「出口・キャリア」も関心の対象になる。学生から見た学部の意味(ブランド名の基礎)は、学問、出口・キャリア(社会環境の変化)、自分の属する大学の3つの交点から生まれるものであり、その発想を突き詰めることが、「今この時代、他でもないこの大学で、学問を学ぶ意味」を問い直し、各大学に固有のブランドを生み出す契機になるのだ。

④個々のブランドが生み出す新しい価値が、大学名というプラットホームの下に集まるように設計する
 関心に基づく活気あるブランド群をつくると、そこで生まれる多様な価値を最終的に一つの大学名に集約するような、コミュニケーションの総合的管理を行う必要が生じる。
 例えば、情報の発信時、見え方をコントロールする方法がある。IBMのテレビ広告では、必ず画面の上下に青い帯が入る。IBMでは全世界の全コミュニケーションの見せ方が管理の対象になっている。それによって、IBMという企業名による信頼性、継続性と、広告のコンテンツである「市場に合わせて常に変化するIBMのサービス(関心)」を結びつけ、「大企業なのに、いつも新しく動きが早いIBM」というイメージの定着を図っているのだ。
 大学でもこのようなコミュニケーションを徹底すれば、時代と顧客が求める関心に焦点を合わせながら、その関心をスムーズに大学名に結びつけられる。「変化と多様性」をいくつもの小さなブランドで、そして「信頼と継続性」を大学名で印象づけ、それぞれの役割を有機的に組み合わせる高度なブランドマネジメントが可能になる。

*Inspire the Next®

  PAGE 3/5 前ページ 次ページ
目次へもどる
大学・短大向けトップへ