特集 コミュニケーションが生まれる授業づくり
VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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楽しい体験の積み重ねが人とのかかわりを深める

 滝沢先生が対人関係ゲームなどの研究を始めたのは、中学校で教壇に立っていた12年ほど前のことだった。三つの小学校を経て、初めて中学校に赴任したが、その中学校では生徒と教師、生徒同士などの関係が崩れていき、次第に校内が荒れていった。
  「信頼関係は、一度崩れてしまうと立て直すのが大変です。崩れる前に先手、先手で子どもたちの人間関係をつくり上げ、支えていくことが大切だと痛感しました」
  「ばかばかしくて、そんなのやってられるか」
  対人関係ゲームを取り入れたものの、反抗心の強い生徒は、ゲームへの参加を拒むこともあった。ところが、クラスメイトがにぎやかにゲームに熱中している頃合いを見計らい、滝沢先生が「たかがゲームだぞ。やってみるか?」と誘うと、そうした生徒も参加して、大騒ぎしながら楽しみ始めたという。
  「いつもはあんなに私のことを嫌がっていた男子が一緒に参加してくれたので、驚いた」
  ゲーム後の感想文に、ある女子中学生がそんな感想を書いたこともある。
  「『楽しかった』という体験を積み重ねていくことが、集団のまとまりをつくる上で大事です。細かい手順も大切ですが、まずは楽しい雰囲気づくりを心がけています」
  元々、対人関係ゲームは不登校の傾向にある子どもが学級に入りやすくするために考え出されたものだ。ゲームを取り入れることによって、そんな子どもたちの不安や緊張とは両立しないわくわくドキドキ感や、ゲーム的な身体運動を意図的に持ち込み、いつの間にかいろいろな人とかかわるように促していく。例えば、高所恐怖症の子どもにただ階段を昇らせようとしても無理だが、アイスクリームをなめながらだと、いつの間にか4階まで来ている、というのと同じ作用だ。
  「集団に馴染めない子どもたちは、緊張してうまく人とかかわれず、クラスに入ってもドキドキしています。『ゲームだよ』と言って足取りの重い子どもを中に入れてしまい、ゲームの楽しさで気を紛らわせながら、知らず知らずのうちにいろいろな人とかかわらせ、結果的に集団での楽しい経験をさせるわけです」
  そのうち、受け入れるクラスの側も育っていく、と滝沢先生は続ける。
  「『Aちゃんもいて、初めて私たちのクラスなんだ』という連帯感が生まれてきます。そして、クラスに馴染めなかった子どもの家に迎えに行ったり、一緒に遊んだりといった場面が自然と出てきます。『本来の自分を出せる』『集団に受け入れられた』という安心感や、それに対するまわりの肯定的な受け止めが、互いのコミュニケーションを円滑にしていくのです」

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