調査室長コラム Ⅰ
第15回 子どもの意見と大人の意見
ベネッセ教育研究開発センター 調査室長 木村治生 (2008/02/18更新）
子どもと大人は異なる価値観や判断基準をもっているので、対立することが多い。しかし、以前にこの連載でも書いたが、「ぶつからない親子」が増えている。また、教員についても、教え諭す訓導型が減り、相談にのって一緒に課題を解決するカウンセラー型が増えているという。子どもと大人の間で、意見がぶつかり合う機会は減っているのかもしれない。
そんななかで、子どもの意見と大人の意見がずいぶん異なるデータを見つけた。図に示した少人数学級についての意見である。
小・中学生に、「クラスの人数をもっと少なくしてほしい」と思うかたずねたところ、「そう思う」という回答は、小学生20.6％、中学生25.6％にすぎなかった。これに対して、大人に「１クラスあたりの子どもの数を少なくする」ことの賛否を問うたところ、「賛成」と「まあ賛成」の合計は、保護者72.6％、一般教員95.3％、管理職（校長・教頭等）91.3％であった（文部科学省「義務教育に関する意識調査」2005年、図は一部省略した）。聞き方が異なるので注意が必要だが、子どもと大人に大きな意見の違いがあることがわかる。
大人の側は、当然ながら、学級の人数が減った方が、子ども一人ひとりに応じた丁寧な指導が可能になると考える。教員は、学習の到達状況や興味・関心を踏まえて教えるには、現在の学級定員では多すぎると感じている。また、保護者は先生一人あたりの子どもの数が減ることで、わが子へのサービスが向上すると思っている。いずれにせよ、学習指導の充実という側面からの改革賛成であろう。
ところが、子どもには、クラスの人数が減ることによる指導の変化が想定できないので、そのようなニーズは生じない。それだけでなく、態度としては明らかに「反対」である。おそらく、現在のクラスの友だち関係に満足しており、その関係が壊れることを懸念しているのだろう。クラスの人数が少なくなると、多様な関係のパターンが生まれにくくなるし、大人数での遊びやスポーツ活動が難しくなる面がある。
学校教育で実現しなければならない課題として学習指導の充実があることは、言を俟たない。しかし、子どもたちが重視する友だち関係の構築も、大切な課題だ。子どもと大人の意見の違いをみると、教育改革が、「大人の都合」のみを優先させるのではなく、「子どもの視点」も考慮する必要があるのだろうと思う。
※初出：月刊「授業つくりネットワーク」2006年１月号（学事出版）
