調査室長コラム Ⅱ

第9回 教員の「苦手」をどう解決するか

ベネッセ教育研究開発センター 教育調査室長 木村治生 (2009/1/26更新)

教員にだって苦手はある

 今どきの教員は、何でもできるスーパーマンじゃないと務まらない ―― そんな時代になりつつあるのではないかと感じる。学習指導で成果を上げるのはもちろんのこと、道徳心を涵養し、同時に子どもたちの人間関係にも気を配ってトラブルを未然に防がなければならない。食育、キャリア教育・職場体験、情報教育、安全教育、小学校英語と、思いつくままに挙げただけでも、次々に新しい教育課題が生まれている。保護者や地域への対応も増えているし、事務処理も効率よく行う必要がある。

 だけど、本当は、教員にだって苦手はある。例えば、教員を職業群として考えると、コミュニケーション力の高い人に適性があると思われるが、実は人付き合いが苦手という教員だっているだろう。整理整頓がうまくできず書類が山積みという教員や、段取りを考えて計画的に物事を行うのが得意ではない教員もいる。このように、教員という職業に求められる行動パターンに対して、その人の個性がマッチしていないために苦手が生じることはあるだろう。

 また、若いうちは保護者への対応に気後れするとか、ベテランになると子どもと一緒になって身体を動かすことがしんどいなど、年齢や教員としての経験との関連で、得意や苦手が生じる場合もある。男性教員は女子との関係が築きにくいとか、女性教員は生徒を叱っても効果が薄いなど、性別によって得意・苦手が違うこともあるかもしれない。

指導の得意・苦手

 教科の学習指導も同様である。小学校の教員であれば、指導している教科のすべてに自信がもてる教員は少ない。高校時代に履修した科目や大学入試の受験科目は比較的得意でも、十分に学んでこなかったところは苦手という先生は多い。中学校の教員は教科担任制なので、そのようなケースは少ないかもしれないが、同じ教科の先生の中でも得意とする領域や単元は異なるだろう。

図:指導の得意・苦手

図:指導の得意・苦手

注)数値は「得意」「どちらかというと得意」と回答した比率(%)。経験年数により「指導していない」「無答不明」の比率が異なるため、これを除いて算出した。サンプルは、公立小学校教員(1872名)。

出典:ベネッセ教育研究開発センター『第4回学習指導基本調査

 は、各教科の指導が得意かどうか尋ねた結果を、教職の経験年数ごとに示したものである。回答者は公立小学校の教員であり、以下では主に小学校を想定して論じる。数値は、「得意」「どちらかというと得意」「どちらかというと苦手」「苦手」の4段階のうち、「得意」「どちらかというと得意」と回答した教員の比率を示す(各教科について「指導していない」と「無答不明」を除いて算出した)。

 これを見ると、経験年数によって「得意」が増える教科と、そうではない教科があることがわかる。「国語」「社会」「算数」「理科」のうち、最も多くの教員が「得意」だと答えているのは、「算数」だ。「5年目以下」でも7割が得意としており、「11〜20年目」以降は9割近くになる。他の3教科はいずれも、「5年目以下」「6〜10年目」の若手教員が苦手意識を感じており、「得意」の割合は半数に満たない。ところが、「11〜20年目」といった中堅に差し掛かるころから教科による違いが表れる。「国語」は経験年数が上がるにつれて「得意」が増えるのに対し、「社会」は5割程度にとどまる。「理科」はずっと4割台を推移し、経験を積んでもなかなか「得意」にはならないようだ。

苦手をどう解消するか

 若い教員は、全般に教科の指導に苦手意識をもっている。これは、経験が少ないので当然だろう。教材研究をきちんと行い、実際の指導によって研鑽を積むのが苦手解決の王道だ。同時に、先輩教員や管理職によるアドバイスやフォローなど、学校内の組織的な支援も欠かせない。研修の充実や、研修による不在時に担当授業をサポートする教員の手当など、仕組みとして整えるべきこともある。とくに若い教員は勤務時間が長い。多忙を極める中で力量を高めるためには、個人の努力に頼るような解決策だけでは不足だ。

 一方、ベテラン教員は、経験を積んでいるはずなのに「理科」の苦手意識が解消されない。ただし、これは経験年数が高い教員に、女性が多いことを原因の1つに挙げていいと思う。実は、女性教員は経験年数を問わず「理科」を「苦手」とする比率が高く、このことが全体の数値に影響しているのだ。「理科」については、特に女性を意識して、教員養成課程の教育を見直したり、研修を充実させたりする必要があるのではないだろうか。また、いくら経験を積んでも苦手が解消しない場合には、他の教員が授業を代わる(可能であれば、理科の専科教員が担当する)といった手立てを考えることが必要かもしれない。

 とにかくこれまでは、教員はオールマイティーでなければならないとされてきた。得意や苦手にかかわらず、すべてを一定水準以上でこなさなければならなかった。しかし、社会から要請される事項が増え、求められる水準も高まっている。教員は、多忙になる一方だ。このような中で、教員個人の努力に頼るには限界がある。

今後に向けて

  学校では、教員同士の長所と短所を明確にしてそれぞれを補完しあうような、チーム全体で課題解決できるアプローチを、もっと取り入れられるとよい。そのように、組織として個々の教員をフォローする仕組みを整える必要がある。

 同時に、行政には何よりも資源の投下を求めたい。適切な資源の配分を受けぬまま、要求だけがエスカレートし、学校現場が疲弊していけば、次代の創造という学校の最も大切な役目など、とてもおぼつかなくなるだろう。財政が厳しいのは百も承知。それでもなお、親が家計をやりくりし、教育費を捻出するように、ぜいたくや無駄を排して子どもに投資してもらいたいものだ。


 グラフのポイントはココ!

(1) 小学校教員が指導において最も得意と考えているのは「算数」である。「5年目以下」でも7割を超える教員が「得意」と回答している。
(2) 「理科」は経験を積んでも「得意」の割合が増えない。これは特に女性教員の特徴であり、制度的にどうフォローするかを考えなければならない。

※初出:月刊「教員養成セミナー」2008年5月号(時事通信社)


次へ
次へ