未来をつくる大学の研究室 運動生理学
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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 少子高齢化の進む昨今では、特に高齢者向けの運動プログラムが重視されています。高齢者は、脳が萎縮して血流が滞り、神経細胞が死ぬことなどを要因として、認知症(※4)が生じると考えられています。ですから、適度な運動によって筋力を維持し脳を活性化させれば、より健やかな生活を送れるようになると思われます。更に、転倒による骨折などを防げるという観点では、医療費削減につながります。
 このように運動生理学の研究成果は、子どもから大人までの健康を維持し、快適な生活を支えるためのデータとして活用できるのです。

写真
写真2 運動することによって身体にどのような影響があるのかだけでなく、心の状態への影響についても研究する。

 運動生理学の研究は、トップアスリートのトレーニング法の開発にも役立てられています。マラソン選手がよく取り入れている高地トレーニング(※5)は、身体にどのような影響を及ぼしているのかを科学的に解明し、より効果的な練習法を開発します。
 アメリカのトップアスリートには、スポーツサイエンスの専門家が専属でアドバイスをしているのが一般的です。一方、日本ではまだ経験や勘に頼ったトレーニングが多いのが現状ですが、徐々に科学的な知見を取り入れる流れが生まれています。今後はますます運動生理学が重視されていくでしょう。
 運動は、心の状態も大きく左右します。近年、すぐキレる若者や引きこもりなど、若い世代の心の問題がクローズアップされています。幼少時代からの運動不足により健全な身体感覚が欠如していることが原因ではないかと、私は推測しています。そうした因果関係を突き止めるのは、今後の課題です。
 身体の研究から人間の本質に迫る。それが運動生理学の醍醐味といえるでしょう。そして、その研究成果から適切な運動の指針を示すなどして、人の健康を守り、元気を与える。そのような大きな目標を胸に抱き、研究に邁(まい)進する毎日です。

高校生へのメッセージ
思い切り夢や志を語ってほしい
大風呂敷を広げるくらいでもよいのです。夢や志を抱きましょう。大学入試の面接で高校生と話すと、残念ながら将来やりたいことを明確に言える生徒は少ないと感じています。目標があれば授業に身が入りますし、学校以外の勉強にも独学で取り組んでみようという気持ちが芽生えます。自分を律する力も生まれてくるでしょう。その日の気分に流されて漫然と過ごすのとは大違いです。運動生理学に興味を持った高校生は、理科全般に加え、英語の勉強も頑張ってください。世界に向けて英語で論文を発表する機会が多々ありますからね。
用語解説
※4 認知症 高齢化などにより、物忘れが激しくなるなど、思考力や判断力などが低下する症状。症状が進むにつれ、食事や排泄なども難しくなる。
※5 高地トレーニング 標高の高い場所は平地に比べ、空気中の酸素濃度が低い。そうした環境でトレーニングや生活をすることで、体が適応して心肺機能が向上するというトレーニング方法。アメリカ・コロラド州ボルダーや、スイス・サンモリッツ、中国・昆明(こんめい)などが知られている。

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