特集 「自立する高校生」をどう育てるのか
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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教師が学びの価値を伝える小冊子『学びの復権』

 「倉吉東高のかたち」の根幹ともいえる教科教育にも、主体性を涵養(かんよう)する工夫が随所に見られる。
 同校では早朝課外、放課後課外は実施していない。土曜日を補習に充てることもない。「文武両道」を柱の一つとする以上、部活動の時間を保障すべきと考えるからだ。その分、年間30回、週末課題・週明けテストを実施して自学自習に向かわせる。その際、漫然とさせるのではなく、実施する意味を生徒に伝えながら生徒の自覚を促すという。
 1学年主任の三谷友来先生は「課題やテストは何のためにするのか、どのような力につながっていくのかを絶えず言い続けています。最初は嫌々ながら課題をこなしていたとしても、テストで高得点が取れるようになれば達成感も生まれ、地道に勉強を重ねることの大切さにも気づいてくれると考えています」と言う。
 大学入試だけを目的とした学びは追求しない――。これも教科教育における同校の方針の一つだ。その象徴が『学びの復権』だ。これはすべての教師が自らの学習体験を基に学びの価値や意味をメッセージとして伝える小冊子である。
 テーマは、1年生は学びの意味や価値、2年生は主体的な学習者の理想像、3年生は高い志を持って学び続けることの大切さを説く。この冊子をLHRや「総合的な学習の時間」などを使い、しっかり読ませる時間を取っているところに、同校のこだわりがうかがえる。「人はなぜ学ぶのか、その意味や価値を問うことで、自ら学びに向かう意欲を喚起することがねらい。生徒が共感し、学びについて真剣に考えるヒントになると願っています」と藤原先生は言う。
 高校時代の友人の思い出、母親との葛藤、趣味の囲碁やサーフィンの話、倉吉東校生に求めるものなど、教師自身の経験談から、学問の大切さをダイレクトに訴えるものまでさまざま。暗記が苦手というある教師は「人には個性があり、自分に合った学習の仕方がある」と述べる。別の教師は、孔子の「遊於藝(芸に遊ぶ)」の言葉を引用しながら「知的好奇心を揺さぶられることはそれ自体が楽しみであり、勉強はそれ自体が目的となり得る」というメッセージを寄せた。生徒たちは、普段見ることのない教師の一面を知ることで教師への信頼を新たにするのである。

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