未来をつくる大学の研究室 食品衛生学と薬学の融合
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研究テーマ
沢ワサビの成分が副作用を防ぎつつ薬の効果も保つ

 こうしたコンセプトで提案した「先導的健康長寿学術研究」は、2002年度の21世紀COEプログラム、並びに07年度のグローバルCOEプログラムに採択され、多くの成果を挙げています。
 その一つが、沢ワサビを使った「薬物と食品の相互作用に関する基礎研究」です。胃がんを誘発する原因の一つにピロリ菌(※2)があります。胃の中は酸性が強く、通常の菌はとても生きられません。ところが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を出して、まわりにある尿素を分解してアルカリ性のアンモニアをつくり出し、胃酸を中和することによって生き続けているのです。
 ピロリ菌を死滅させるためには、3種類の薬を2週間投与する必要がありますが、薬を飲むと人によっては耐性菌が出現したり、下痢などの副作用が現れることがあります。副作用を減らしながらも、効果を持続させるためにどうすればよいのか。そこで考えたのが、抗菌・抗カビ作用のある沢ワサビの活用です。
 クラリスロマイシン(※3)(CAM)という薬と沢ワサビの葉から抽出したアリルイソチオシアネート(AITC)という辛み成分を混ぜて、ピロリ菌に感染したマウスに投与しました。その結果、薬の濃度を3分の1に抑えても、同様の効果を得ることが確認できました。また、ピロリ菌感染マウスのNに沢ワサビの葉の抽出物を混ぜたり経口投与したりしたときにも、ピロリ菌の増殖が抑制されることがわかりました。
 今後は、医師や県の医療機関と連携し、厳重な安全対策を施しながらヒトへの効果を検討していく予定です。

写真1
写真1 マウスに抗炎症薬を投与すると、写真のように胃の 損傷がみられる。しかし、この状態の胃に植物成分を投与す ると、症状が緩和される

 糖尿病(※4)の早期発見の研究でも、一定の成果を挙げました。日本では、糖尿病は予備軍を含めて約1870万人いるといわれ、最近の5年間で250万人も増えています。糖尿病は、糖の取りすぎのほか、運動不足や睡眠不足、ストレスからも引き起こされます。そこで早期に病態を把握するための指標を見つけることが研究のねらいです。
 具体的には、メイラード反応(※5)によって糖尿病患者の血中にどのような酵素が増えるのかを調べました。メイラード反応とは、食品を加熱したときに褐色になったり、香りを放ったりする現象です。40年ほど前、同様のことが生体内でも起こっているとわかり、特に糖があるほど進行が早くなるため、糖尿病や動脈硬化の研究においても着目されるようになりました。
 研究の結果、糖尿病の指標になる酵素をいくつか見つけることができました。今後研究が進み、糖尿病の進行との関係が明確になれば、血液検査で簡単に糖尿病予備軍を検知できるようになり、病気の予防につながると考えています。

用語解説
※2 ピロリ菌  正式名称はヘリコバクター・ピロリ。螺旋(らせん)状の細菌で、慢性萎縮性胃炎胃かいようや十二指腸かいよう、胃がん等の原因とされる。
※3 クラリスロマイシン  代表的な「抗生物質」の一つで、肺炎などの治療に用いられ、最近ではピロリ菌除去にも用いられる。
※4 糖尿病  インスリンの作用が低下したために体のエネルギー源であるブドウ糖が細胞に行き渡らず、血液中にあふれている状態。悪化すると、のどが渇く、尿が多くなる、体重が減る、疲れやすいなどの症状が現れる。
※5 メイラード反応  たんぱく質やアミノ酸を糖と一緒に加熱すると褐色になる化学反応のこと。生体内でも起こることが明らかにされ、糖尿病との関係が注目されるようになった。

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