未来をつくる大学の研究室 食品衛生学と薬学の融合
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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研究の展望
薬学と食品科学、双方の知識がもっと求められる

 薬品と食品の相互作用の解明も、研究テーマの一つです。例えば、狭心症の患者には血液をさらさらにするために抗凝固剤のワルファリンを投与しますが、納豆などを同時に摂取すると、薬の効果が著しく下がってしまいます。納豆に含まれるビタミンK(※6)には血液を凝固させる作用があるため、薬の効果と相殺されてしまうからです。逆に、ビタミンAなどを摂取すると、ワルファリンの効果は増強されます。
 今、医薬品と食品の相互作用や安全性について体系的研究は十分にされていません。今後、医薬品の作用を増強する食品、逆に減少させる食品などの組み合わせを一つずつ解明し、データベース化して世界に発信していく予定です。
 超高齢化社会が進み、健康への関心はますます高まっています。それ故、薬学と食品科学の連携は、更に重要になっていくでしょう。また、高次機能性食品(※7)の開発や販売についても、薬学と食品科学の両面からのアプローチが必要です。薬局では医薬品だけでなく、健康食品も扱っていますが、薬剤師が食品についての専門知識を持っていない場合もあります。人々が安心して薬局を利用するためには、薬剤師にも食品に対する理解は欠かせなくなっています。
 今後、薬品・食品双方の知識や技術、研究の方法論を身に付けた人材は、ますます求められるようになることでしょう。そして、その活躍するフィールドは更に広がっていくものと確信しています。

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用語解説
※6 ビタミンK  血液を正常に凝固させたり、骨を丈夫に保ったりする働きがある。納豆・クロレラ・モロヘイヤなどに多く含まれている。
※7 高次機能性食品  病気予防・健康維持を目的とした健康食品。食品成分が、免疫や分泌、消化などを調節する機能を持っている。
高校生へのメッセージ
自分の興味関心をとことん追究しよう
 私は、他人が目を向けない分野を研究してきました。30年前、魚のがんについて研究を始めたときは、周囲から冷ややかな目で見られたものですが、今ではアメリカの大学の医学部でも取り組んでいます。流行を追うのは一見、格好よく見えます。しかし、本当に大切なのは、自分自身が興味を抱いた事柄をとことん追究することです。高校生の皆さんには、普段からさまざまなものに興味を持ち、疑問を感じたらすぐに調べる習慣を身に付けてほしいと思います。自分の好きなもの、したいことが見えてくるのではないでしょうか。
高校生にお薦め入門書
『健康・老化・寿命〜人といのちの文化誌〜』 (黒木登志夫著/中央公論新社)
◎がん細胞研究の第一人者でもある岐阜大の黒木登志夫・前学長による随筆風の医学解説書。「寿命」「老化」「肥満」「生活習慣」など、9章で構成。医学を身近に感じられるよう、自身のがんや狭心症の体験も語る。
『健康と長寿への挑戦〜食品栄養科学からのアプローチ〜』 (木苗直秀編著/南山堂)
◎静岡県立大食品栄養科学部の創設20周年を記念し出版された研究論文集。お茶やミカン、ワサビなど静岡の特産品を用いた研究からは「食と健康」に挑む研究者の意気込みが垣間見られる。

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