未来をつくる大学の研究室 演劇学
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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研究テーマ
能や演劇を切り口に人間と社会の本質に迫る

 能楽研究の中心は、文学研究です。国文学の研究者が『源氏物語』などを読んで作品を研究するのと同じように、能楽研究の研究者も能楽論やさまざまな能の曲目をテキストとして分析します。
 歴史も主要な研究テーマです。例えば、江戸時代には、能は大半の大名家で上演されたほど盛んでした。そのため、全国の図書館や郷土資料館には、江戸時代の史料が今も保存されています。歴史研究では、そうした史料をひもとき、当時どんな曲目が演じられていたかなどを研究します。
 しかし、能は文献だけを調べればすべてがわかるわけではありません。現実に舞台で演じられてきたものだからです。長い歴史の中で、実際の舞台ではどのように上演されてきたかを、より具体的に明らかにしていく研究も重要です。
 私は2000年から02年にかけて、豊臣秀吉の時代に上演されていた能の演出の復元に取り組みました。古い史料には、当時の舞台の演出について書かれた記録も数多くあります。全国に残るそうした史料を突き合わせながら、能の発展の歴史を系統立てて整理し、秀吉の時代には能がどのように演出されていたのかをたどっていったのです。そして、能役者の皆さんの多大な協力を得て、秀吉が見た『卒都婆小町(そとばこまち)』(※3)を復元しました。
 現在の『卒都婆小町』の上演時間は約90分です。ところが、秀吉時代の版で演出してみると、約50分で終わることがわかりました。当時の拍律で謡うと、自然とテンポが速くなるのです。世阿弥時代(室町時代)の謡は、笛の演奏に合わせて謡っていたという記録が残っています。今は、笛と謡が音を合わせたりすることはありません。今回はその中間をねらいました。
 そうして復元してみると、秀吉時代と現代の能とでは、受ける印象が随分違いました。秀吉時代の能は軽くてスピード感があり、謡はメロディックです。観賞後の客の中には節回しを覚えて鼻歌交じりに帰る人もいました。こうしたことは、現代の能鑑賞ではまずあり得ないことです。

写真
写真 江戸時代に市販されていた狂言の台本。早稲田大には演劇博物館があり、このような国内外の貴重な資料が展示されている。入館は無料
用語解説
※3 『卒都婆小町』 『卒塔婆小町』とも書く。年老いて物乞いとなった小野小町が主人公(シテ)の曲目。「小町物」といって、小野小町は能の題材によく用いられており、ほかにも『通小町』や『関寺小町』などの曲目がある。

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