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Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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社会貢献、出口の広さで、イメージを変える働きかけを

 高校生が社会や職業に対して抱く表層的、一面的なイメージを変え、視野を広げることは、大学の重要な役割だといえる。工学部での学びが、ものづくりなどを通じてどのように豊かさや幸福につながるか、分かりやすく示す必要があるだろう。
 「社会貢献といえば医療・福祉関係の仕事」と多くの生徒が考える現状を捉えても、医療工学分野の研究や介護ロボットの開発で、「人の命を救ったり、ハンディのある人の暮らしを支えたりすることができる」と、アピールすることは可能なはずだ。
 さらには、知的財産、金融工学、技術経営(MOT)など、工学的な知識をベースにして従来の文系分野で活躍することも可能という、出口の広がりを示してやることが重要だろう。
 政策研究大学院大学の橋本久義教授は、中小企業の活性化策について研究する立場から、工学部離れの進行を憂える。「アメリカでは、製品の欠陥について製造者の責任を問うPL法訴訟が1980年代半ば以降に相次ぎ、『自分で作れば損をする』という風潮が生まれ、ものづくり産業を衰退させた」と指摘。近年、日本も同じ状況にあると見る。「地位が低い上に責任は重いというのでは、工学部離れが起きて当然。技術者の地位を向上させ、感謝される誇りと喜びを持たせなければ、この問題は解決しない」。
 同教授は、大学入試制度とそれに対応する高校の履修システムが工学部離れを招いている、とも指摘する。「早い段階での文理分けによって物理を本格的に学ばない生徒が多く、ものづくりの原理の面白さに触れる機会を失っている」。
 技術者の社会的地位や高校の履修システムは、大学の努力だけで解決できる問題ではない。それでも、これらをつなぐ立場にある大学の役割は重要だ。産業界や社会に対するアプローチ、高校とのコミュニケーションによる入試制度の見直しなど、中長期的な視点からの取り組みも必要だろう。


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