三者の提携についての話し合いは比較的スムーズに進んだが、文学部内における合意形成は簡単ではなかった。2006年６月の記者発表まで、学外に情報が漏れないよう慎重に説明し、理解と協力を求めた。芝井副学長は文学部に常置された各種委員会で段階的に構想を示し、十分に理解を求めた後、記者発表の直前に教授会に諮った。
　「教授会で反対され事業が頓挫したら、学部長をやめるつもりだった」と芝井副学長は打ち明ける。その間、社会開発研究センター、アンクラージュとの提携内容の詰めは、学部長以下７人で構成される文学部の執行部が進めた。並行して教員有志15人により教育プログラムの原型がつくられた。
　教授会では種々の質問は出たものの、強い反対意見はなかったという。一般的に大学では、新しい事業に対して消極的な教員が多い。根回しと緻密な事業計画があったとはいえ、学部内の合意形成が比較的スムーズに進められたのはなぜか。
　2006年に創立120周年を迎えた関西大学は、７学部を擁する西日本有数の総合大学だが、最初は夜間の法律学校から出発した。「夜間教育の良さは、異なる世代の学生が学び合う中で生まれる活気にある。社会人や主婦、シニアらがお互いに刺激し合い、切磋琢磨する伝統があった」と芝井副学長は述べる。夜間教育の伝統は第２部、フレックスコースとして受け継がれてきたが、2007年度までに全学部のフレックスコースの廃止が決まっている。
　異なる世代の学生が学び合う場を、カレッジリンク型シニア住宅によって取り戻そうという思いが、文学部の教員を一つにした。全教員が大学の伝統を見つめ直したことが、新たなチャレンジにつながったといえる。