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Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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民間企業による再生支援の、3つのケーススタディ

 2005年から、経営破綻した学校法人を民間企業が支援する事例が相次いでいる。両者を結び付ける仲介業者も現れた。ここでは、民間企業が学校経営に参入する3つの事例を通じて再生支援の内容を紹介し、その分析を行う。

■事例1 中国地方のH学園
 1960年代に専門学校と短大を開設した。1999年には情報系学部を設置する大学を開設した。H学園の地元市内にはほかに高等教育機関がなく、4年制大学設置について、地元産業界や自治体から強い要望、期待があった。
 しかし、入学定員300人に対し、初年度の入学者が205人、次年度は99人だった。2005年度は42人にまで落ち込み、収容定員の1240人に対し学生数194人となり*6、経営危機に陥った。
 H学園は、徹底したリストラ、新しい教育コースの創設、留学生募集の強化などの策を講じたが、志願者増にはつながらない。債務の弁済が困難となり、2005年6月、東京地裁に民事再生手続き開始の申し立てをした。その際、中国地方に拠点を置くSホールディングスというスポンサーが公表された。同社は2004年設立の持ち株会社で、建設事業や老人ホーム運営などを手掛け、M&Aで急成長を遂げた。金融機関が仲介役となって、2005年5月にSホールディングスにH学園の案件が持ち込まれたとされる*7
 同社は、高齢者向け事業のノウハウを生かし、社会福祉系の学部開設などを中心とした人材育成による大学改革を考え、グループ全体のシナジー効果を期待していると発表した*8。2005年8月には同社の代表者がH学園の理事長に就任し、改革に着手。2007年度、福祉系の単科大学として生まれ変わることになった。

■事例2 中国地方のT学園
 この学園は、1870年代に宗教系の男子高校を開設した。1960年代に工業科の設置許可を受け、後に特進コースを設置した。サッカー部や野球部の活躍で知られる。
 しかし、2005年10月に民事再生手続きを東京地裁に申し立て、保全命令および監督命令が発令された。破綻要因として、次の点が指摘された*9
 同学園は少子化対策として、2004年に総事業費約90億円をかけてキャンパスを移転し、講堂、サッカー場などの設備を整え、男女共学校として新たなスタートを切った。約70億円を金融機関から借り入れ、返済は寄付金・助成金によって賄う計画だった。しかし、寄付金が予定通り集まらず、急速に資金繰りが悪化する。
 スポンサーを募った結果、四国地方で予備校、医療法人、ゴルフ場などを経営するTグループが名乗りを上げた。学校経営への参入理由は、「少子化時代を迎え、すそ野を広げて経営基盤の強化を図る」*10ためだという。グループの代表者が理事長となり、法人名も改称、再建を図ることになった。

■事例3 北海道のO学園
 1950年代に設立された学校法人で、短大、高校、専門学校を経営する。短大は1960年代に開学し、人文系3学科を設置。1993年度には720人だった学生数は、2006年度に収容定員280人に対し74人まで減少した*11
 同短大は1999年度に共学化して増収を図り、リストラでスリム化も進めたが、経営状態は改善されなかった。納付金収入が減少し、国庫補助金が停止され、経営危機に陥る。同学園は、事例2と同じTグループにスポンサーを依頼、2006年7月に契約した*12。翌8月には負債額約4億円で札幌地裁に民事再生手続きを申請した。
 Tグループは、記者会見で今後の運営方針と併せ、破綻の要因について説明。「短大の定員割れは、学園側が説明した少子化の影響ではなく、時代のニーズを見誤り、学生募集に関して競争心がなかったため」という趣旨の見解を示した*13。グループの関係者がO学園の新理事長と新学長に就任し、校名も変更。今後は実質的にTグループ主導で、学科改組やカリキュラム改革による教育事業の見直し、事務局の効率化に着手し、再建を目指す。

■分析 自社の人材確保の期待も
 以上の事例は、学生数の減少や資金計画の失敗が破綻の要因であり、ガバナンスが機能していなかったことが問題の根底にあると推測する。
 H学園のケースは、マーケティングが不十分であり、T学園では運営計画のチェック体制が機能していたかどうかが問われそうだ。O学園のケースは、Tグループのコメントから推察するに、学生募集戦略や運営方針に問題があったと思われる。
 スポンサーは篤志のみで学校経営に参入するわけではない。Sホールディングスの場合、自社事業と関連した分野の学部新設などでノウハウを生かしつつ、就職支援でも強みを発揮できる。自社の人材確保にもつながるなど、一定のメリットが期待できると判断したのだろう。
 短期間に積極的に事業を拡張しているTグループには、現在、複数の学校法人から支援依頼が寄せられているといわれ、今後の展開が注目される。
 H学園の事例に関わった仲介業者は、学校法人と企業を結ぶ新しいビジネスとして、各方面の関心を集めている。

*6 帝国データバンクウェブサイト 2005年6月27日確認 http://www.tdb.co.jp/tosan/jouhou.html
*7、8 「日本経済新聞」2005年6月22日付
*9 帝国データバンクウェブサイト 2005年10月27日確認
*10 「徳島新聞」2006年4月19日付
*11 帝国データバンクウェブサイト 2006年9月1日確認
*12 「徳島新聞」2006年8月1日付
*13 「読売新聞」2006年8月23日付

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