特集

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
  PAGE 15/39 前ページ 次ページ

最良の教育を追究するキャンパスづくり

 大学の目的である教育、研究、社会貢献のうち、入学してくる学生にとって最も重要なのは教育である。入学した大学で自分を最大に成長させることを願っているはずである。大学はそのこと、すなわち最良の大学教育(エクセレンス)を可能にするために、あらゆる努力をして、人的・物的および精神的環境をつくることが、今、最も重要なことなのではないだろうか。私はそれを「最良のアカデミックキャンパスづくり」と表現したい。それは、どのようにすれば可能なのであろうか。
 大学には学問研究の自由が保障されている。大学はあらゆる物事の存在意義を問うことのできる存在である。それを自分自身に向けて、以下のような自己点検・自己評価を行い、最良を追究すべきではないか。
 すなわち、現在の大学のカリキュラムは最良の教育を可能にするものとなっているのか、現在の大学の授業は最良のものとして行われているのか、授業では学生は目を輝かせて前の方の席で学んでいるのか、学生が最適に学べるように授業クラスの人数は制限されているか、教員は学生の知的探求に応えられるように応答をしているか、そうしたことを可能にするための人的・制度的組織はなされているのか――などなど。
 こうして最良のあり方を常に追究するときに、「最良のアカデミックキャンパスづくり」が可能になるのではないだろうか。それは理想論であり、抽象論かもしれない。しかし、そうした最良の教育を提供できるという自信なくして、どうして意味のある学生募集と入学者の選考が可能になるであろうか。

「3つの方針」の結合には 学長のリーダーシップが必要

 現行の入学者選考の問題点は、入学後の教育にかかわることについての入学者の資質を問うていないことである。即ち、学生の基礎学力や、学習意欲、適性などを含めて教育をするために必要な資質を考慮して入学者選考を行っていないことである。優れた大学教育を始めるためには、入学者についてのレディネス(大学教育を受けるための基礎的資質能力)の把握が重要である。
 アメリカでは、入学選考における知的な要素を測る物差しは、SAT(Scholastic Assessment Test)もしくはACT(American College Test)という2つの民間の大学入学テストセンターが作成したテストと、高校の成績による。1年に複数回(SATは7回、ACTは6回)のテストを実施して、本人の可能性を最大に測定しようとしている。わが国の入学試験との違いは、本人の大学における学習適性能力を測っていることで、試験の点数は大学での成績と高い相関を示している。それは、長年にわたる研究によるそのテストの信頼性や妥当性の蓄積によるものである。
 残念ながら、わが国においては入学試験に関してそうした蓄積がなく、受験者の大学入学を安易な方法で決めているので、入学者に関しての基礎資料が貧弱である。大学入試センター試験の成績も、また一般入試を行っているところでも、そうした試験の点数は合格者の決定に用いるだけで、それ以後の教育にはかかわらないのである。そして、実際には入学試験の点数は大学での成績とは相関しない。
 最良の教育を行うためには、まず入学者の選考から最良の方法を工夫すべきではないか。そうした最良の入学選考が、今、求められているのではないか。
 さて、最近の中央教育審議会大学分科会制度・教育部会の審議のまとめでは、明確な「3つの方針」としてアドミッション、カリキュラム、ディプロマの3つのポリシーに貫かれた教学経営が示唆されているが、この3つのポリシーはすべてこれまで述べてきた大学教育にかかわるものである。すなわち、それは教育の「入口」「中身」、および「出口」にかかわることである。
 これまでの大学の慣行に従えば、これら3つのポリシーはすべて教授会の責任事項になるといえようが、教授会を構成する教員だけでは、この問題を有機的に受け止めて教学経営をすることは困難である。
 この問題は、大学全体が大学の社会的責任(USR)として受け止め、大学の教学関係者と行政・事務の関係者とが一致協力して、アドミッション・ポリシーを起点として、大学の教育との関連で有機的に統合して取り組み、それぞれにおいて最良の実施を図ることによって、初めて解決することができるのではないだろうか。
 そのためには、学長のリーダーシップが必要である。こうした取り組みにこそ、教学のトップとしての学長の力量が必要となるからである。これまで述べてきた最良の教育を追究することにおいて、その取り組みには、学長のリーダーシップによる優れたマネジメント、および大学全体のガバナンスが必要である。
 特に、こうした新たな視点による統合の取り組みに関しては、組織のトップとしての学長のリーダーシップが不可欠といえよう。


  PAGE 15/39 前ページ 次ページ
目次へもどる
大学・短大向けトップへ