1990年代後半に入り、「大学の生き残りのためには改革が急務で、この数年が勝負」と言われ始めた。しかし、数年間のはずの改革はさらに持ち越されて、その後10年以上も続いている。この状況に疲労の声が聞かれ始めた。だが、学士課程でもＦＤが義務化された今後は、一歩先を見据えた中・長期的な視点から、教職協働によるＦＤの将来を見ることもできそうである。
　各大学がＦＤに取り組み始めたころ、ＦＤ活動といえば教授法の改善に終始していた。その後、授業公開や教員相互の授業参観などが行われるようになり、シラバス作成・公表、科目間相互の連携を意識したカリキュラム構築と活動の幅は広がり、定着した。最近は「学士力」と呼ばれる人材育成像が論議されるなど、さらにその目的・範囲が拡大している。
　大学全入時代を迎えるという背景もＦＤ活動を促進している。そのような中、大学の「生き残り策」と「質の高い教育」の両方を見据えたＦＤ活動がある。しかし、質の高い教育を行おうとしても、教員の努力だけでは手に負えない状況もあった。それは、学生の学力低下や未履修科目への対応が、授業の範囲内では十分にできないためである。そこで、大学では組織的に補習教育、導入教育や接続教育を行うようになっていった。
　当初は教員の個人的な資質向上という側面が重視されたＦＤであるが、このような大学内外の新たな課題に対して、大学の組織力が求められる局面はさらに増している。

　学生対応窓口においても職員の変革を迫られる状況が起こった。大学進学率が50％を超えたこと、子世代が初めて大学に入学する「大学第一世代」の志向がきっかけとなった。権威的な大学文化に対して違和感を訴える学生や保護者の出現である。彼らは純粋な「消費者」として大学の前に現れた。従来の大学教職員にとっては一種のカルチャーショックである。
　文化の違いによる衝突から、事務窓口も「学生を顧客と考える発想が必要」という視点での改革が求められた。これは、授業料に対するコスト意識から、学生生活や教育の質に対して大学が説明責任を持つことにもつながっていく。
　入り口と出口からの改革要請もある。学生の入り口管理として行われる高大連携や入学前教育では、入試広報部門等の職員と教員との協働が不可欠である。また、若者の就労意識の希薄化やニート・フリーター問題が、出口管理としての「キャリア教育」を促す。これを担う就職支援室等の職員組織と教員組織との協力が重要なのである。
　これらは入り口と出口を管理する必要性から生じたＦＤ・ＳＤ連携と見ることができる。サービス面からの改善要求はＳＤにつながり、学生満足度などの指標がＦＤも巻き込んで、緊張感のある教員・学生・職員の３者関係を促している。

　ここ数年、教育研究関係の補助金は文部科学省からばかりではなく、経済産業省、環境省、国土交通省、内閣府からも多様な形で支給されるようになった。もちろん、そのほか海外資金も民間資金もある。すでに、この状況を察知している大学では、外部資金を獲得する専門家を配置し始めている。従来の教職員の業務能力では追いつかないからである。
　「大学というところは、えたいの知れない人がたくさん出入りしている」。これは長く文部官僚を務め、その後、私立大学の学長等を歴任したある人物の言である。かつての大学が梁山泊のようだったさまを皮肉った言葉であるが、むしろこれからの大学には、これまでの教員、職員というポストの概念を突き崩すような、多様な専門家が必要なのではないだろうか。
　海外大学動向の専門家、外部資金獲得の専門家、教育支援の専門家、各種資格の専門家などが結集し、ＦＤ・ＳＤ連携が機能する大学はまだ少ない。職種の壁を取り払い、真の意味での「教職協働」が実現する大学づくりをめざすことが問われている。