教職協働による
ＦＤコミュニティづくりを

　私は2002年から３年間、「大学教育開発センター」で職員としてＦＤを担当した。本学のＦＤは授業評価アンケートから出発しているが、当時、ＦＤに対する教員の反発は少なくなかった。ＦＤは「教員を管理するもの」ととらえられ、授業評価アンケートを実施するとなると、本センターに不満の電話が寄せられた。その度に、私はファイルを抱えて教員研究室へ趣旨の説明に走った。
　教職協働を特に意識していたわけではなかったが、無我夢中で地道な活動を続けてきたことが、教職協働のＦＤであったと思う。ＦＤチームに入って一緒に活動する私の姿を見た職員から「そういう仕事をするのは10年早い」と言われたこともあったが、一方で応援してくれる学内外の教職員のおかげで続けられた。
　ＦＤ活動として、具体的には授業参観や授業評価アンケートの分析方法の開発など、本学としては新しい取り組みに挑戦してきた。それは、１人で成し得たのではなく、一緒に活動した教員や職員と時間をかけて実践してきた結果である。
　活動の中で課題も見つかった。ＦＤ委員は任期が２年であり、任期が終わると交代してしまう。より多くの教員がＦＤにかかわるという利点はあるが、一方で実践知が受け継がれにくく、持続性が弱かった。また、本学の全学ＦＤはＦＤ委員会を中心とした活動であり、ＦＤ委員に任命されていない教員・非常勤講師や職員は、ＦＤ活動には参加できても、ＦＤの企画や研究開発に自主的にかかわる機会はなかった。
　ＦＤに携わった経験から、任期制のチームとは異なり、ＦＤを通して創造的な教育環境をつくり上げるための、多様な人材が集まる「場」が必要であると痛感した。

　どうしたらＦＤの「場」をつくることができるのか。課題を解決するため、本学大学院の大学・学校づくり研究科に入学した。研究科ではＦＤのコミュニティづくりの研究を行い、本年３月、第１期生として修了した。修了後の今も、そこで研究した「コミュニティ・オブ・プラクティス（ＣＯＰ）」という新しい動きに注目している。
　ＣＯＰとは、1991年にエティエンヌ・ウェンガーとジーン・レイヴが提唱した「組織における学びのコミュニティづくり」のコンセプト。個々の価値観や興味の多様性を認め、自発的な活動による創造開発力を期待し、かつ組織力を高める方法論である。大学間連携による教育向上を実現しようとするカーネギー財団や学士課程教育の質的向上をめざすいくつかの大学が取り入れている。
　今の大学には、教員と職員が一緒になって取り組めるＦＤの「場」があまり存在しない。しかし、ＣＯＰの考えを取り入れ、学部の垣根や、教員と職員の壁を超えた異分野のメンバーから成るＦＤのコミュニティをつくることは、教育の強みづくりにつながるのではないかと思う。
　そのためには、そのＦＤコミュニティが持続的に成長できるように、執行部を含めた大学による支援も必要となるであろう。ＣＯＰによる教職協働のＦＤにとって、情熱を持ってＦＤの研究開発や実践に参加する人々を、組織がプロフェッショナルとして認知することが望まれる。
　スタッフとしてＦＤに携わった経験から、教職協働のＦＤ推進において、より効果的に創造的な仕事をするにはどういう場が必要かということを、大学が真剣に考える時が来ているのではないかと感じる。