自主性・自立性を育てる
有効な職能開発と職場風土づくり

　同一世代の過半数が大学に進学する時代となり、多くの大学で、これまでの教育システムが機能しなくなった。基礎学力の不足している学生や、学ぶ意欲が著しく乏しい学生が入学しているからでもある。
　2008年３月に発表された中央教育審議会の「学士課程教育の構築に向けて（審議のまとめ）」では、「大学進学率が過剰であるという立場をとらない。若年人口の過半数が高等教育を受ける現状を是としている。また、大学で学ぼうという意欲や能力がある若者をできるだけ積極的に受け入れていく」とし、学士課程教育を通じて「２１世紀型市民」として自立した行動ができるよう必要な能力を育成していくことが求められると提起している。
　埋蔵資源に乏しいわが国が「教育立国」をめざすのは、当然のことである。
　ところで、医学系の学部を擁する大学を除いて、私立大学の収入の８割前後は学費収入である。大学経営において、最も収益が上がるのが教育だということでもある。最も収益の上がるところに最大の経営資源を投入するのは、経営の常道でもあろう。
　経営というと財務や人事、企画のことだけが頭に浮かぶかもしれないが、私立大学経営の中心は教育にあると認識しなければならない。
　2006年度から私立大学の４割前後が入学定員割れの事態に陥っているが、特に地方の中小私立大学に顕著である。このような大学では、冒頭に述べたような学生がより多く入学してくるという現実も直視しなければならない。
　学生募集をどんなに派手に行っても、それだけでは十分な数の学生の確保はできない。経営陣として、学生の実態を真正面から見つめ、大学の教育ミッションをふまえた新しい教育方法を開発できる人材を育成していかなければ、個別大学の経営も、日本の高等教育も危うくなるのは避けられないだろう。

　学力や意欲の不足している学生に対する大学側の取り組みはどうなっているのであろうか。補習教育の実施、資格取得のためのプログラム設定など、対症療法的なことがまだまだ多いように思われる。
　ＧＰに採択された大学の取り組みを見ると、少なくない大学で新たな教育手法の開発にチャレンジしていることは注目すべきであろう。従来の座学中心の教育システムだけではなく、学生の学習意欲をいかに引き出すか、という視点が明確なものが多いからである。
　学力や意欲の不足する学生が多くなれば、教員がすべての学生の教育に責任を持つのは不可能である。教員個々人にその責任を押し付けるのではなく、大学として新たな教育システムを開発すべきであろう。
　正規カリキュラムだけでなく、学ぶ意欲を喚起する、隠れた（ヒドゥン）カリキュラムたる、入学前教育、初年次教育、全学共通教育、キャリア開発教育、正課外活動、学習支援の各体系、環境整備等についても意識的に準備すべきであろう。正課教育の中でも、効果が明らかなフィールドワークをはじめとした体験型学習の手法や、ＩＣＴ（情報通信技術）を活用したeラーニングシステムなどを取り入れる必要があろう。
　これらのことを具体化し、実行に移して大学の教育力を高めていくためには、当然のことながら、教員の能力を開発するだけではなく、職員の能力も開発していかなければならない。大学がめざすべき教育目標を共通のものとして、教員と職員が能力を高め、一致して新たな教育システムや教育方法を開発する。そして、学生自身にとっても「学びの成果」が「見える」、手応えのある教育改革をしたいものである。ここに教職協働の必要性がある。
　ところで、ＳＤの取り組み状況を見ると、大方の大学で研修を受けることが、その中心となっている。もちろん、それも必要な要素ではあるが、今までも行われてきたのではないだろうか。
　肝心なのは、職員全体の能力開発を、職員集団自らが励まし合い、叱咤し合いながら自主的・自立的に実行していけるように仕向けることだと考えている。激しく変化する社会状況の中での持続的な能力開発は上からだけでは無理である。