教育の改善を目的とするIRで収集・分析すべき情報は何か。自己点検・評価や、国立大学であれば中期目標・中期計画のために、各大学は多くの情報をそろえる。IRでは必要なものに絞り込んで活用することが重要だ。あまり多くの情報を分析すると混乱する上に、分析に労力を割かれて提言までたどり着けないということになりかねない。
　愛媛大学では、ディプロマ・ポリシーと各科目との整合性を可視化する「カリキュラム・チェックリスト」の入力を重視している（本誌2008年春号参照）。育成する人材についての社会に対するマニフェストともいえるディプロマ・ポリシーに、カリキュラムがどの程度、合致しているかというデータは、教育の改善に不可欠というわけだ。
　一方、沖准教授は、学生生活にかかわる情報の収集・分析の重要性を指摘する。教育改善の大前提として中退の防止が多くの大学の重要課題であり、この問題抜きには語れないという考えからだ。中退の理由を知るには、入学時の入試形態と成績、在学中の成績など、プロセスを追った客観的な情報が必要になる。さらに、その学生の生活情報とクロスで分析しないと、退学の本当の原因は分からず、対策も立てられない。
　山田教授は、学生調査を記名式で行い、単位修得率や出席率など教務のデータとクロス分析することを提案する。「留年しそうな学生のケアや意欲の高い学生の支援など、有効活用できるはず」と話す。

　情報の分析における注意点としては、他大学との比較によって特色や課題を相対的にとらえる必要性が挙げられる。IRは、気付いている問題を解決するための活動であると同時に、気付いていない問題を掘り起こす活動であるともいえる。同規模の大学や女子大、福祉系など同じ属性の大学同士で比べることによって、課題が明らかになる場合もある。
　もう一つ理解しておくべきことは、調査・分析の継続の重要性だ。一般的に、同様の調査・分析を毎年度、実施すると、アンケートの回収率が下がり、結果の変化も見えにくくなる。初年度のインパクトとの落差が大きいだけに、調査の打ち切りやIRの存続論議に発展するかもしれない。
　しかし、例えば他大学で変化している部分が自学では不変なのであれば、そこは特色または問題で、調査を続けなければ気付かない。こうした点を担当者が理解し、中・長期的な視点でIRの有効性を学内に訴えていくことが重要だろう。