文系の学生を対象に
実験重視の自然科学教育を実践

　慶應義塾大学は、1949年の新制大学移行以来、「文系学生への実験を重視した自然科学教育」を実践してきた。建学以来の実学重視の教育理念に基づき、教養教育の一環として、論理的思考力や科学的素養を持つ人材を育成するのがねらいだ。
　生物学教室教授の秋山豊子氏（法学部）は、「文系学生の就職先は銀行や商社など多岐にわたる。どの分野に進んでも生かせる、自然科学的な論理性や、客観性のあるものの見方を備え、知性のバランスが取れた学生を育てたい。現代では、食の安全や環境など自然科学的な背景を持つ社会問題が多く、文系学部の学生が自然科学を学ぶ意義が高まっている」と話す。
　現在は、文・経済・法・商の文系４学部で、６単位または８単位以上の自然科学科目の履修を義務付けている。以前は学部単位で科目を設けていたが、５年前に４学部の共通科目とした。
　１・２年生（文学部は１年生のみ）が通う日吉キャンパスで開設されている自然科学科目のうち、物理・化学・生物には実験を含む科目があり、週約60クラスに上る。授業は実験と講義がセットになっていて、１回が２コマ連続。実験と講義が隔週で行われる。
　講義と比べて、実験は施設・設備、人員や費用などの負担が大きいが、積極的に取り入れる目的は３つある。１つは、実験を通して自然科学への興味を引き出すこと。２つ目は、実験から考察への一連のプロセスを通して「科学的な事実や客観性とは何か」を理解させること。３つ目は、実験によって観察力や忍耐力などをはぐくみ、人格形成の一助とすることだ。
　学生は必ずしも実験のある科目を選択しなくてよいが、例年、１年生の約７割が履修している。
　文系学部の学生の場合、高校時代の理数科目の履修状況が大きく異なり、自然科学の知識に差がある。秋山氏は、「担当教員は、『ここまでは高校時代に学んでいて当然だ』という基準を設けないようにしている。学生の反応を見ながら、理解度が低ければ繰り返し説明する」と話す。