2012年以降も、中長期的な意味での競争力を強化して生き残るために、大学はどのような視点から改革を進めるべきだろうか。著しい環境変化を大学の新たな競争力を生み出す源泉に変える取り組みとして、3つの課題を提起したい。
1つ目の課題は、 「育成すべき人材像の明確化に基づく、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーの整備と一体的運用」である。これは、学士課程答申においても提起された。
2009年9月、ベネッセ教育研究開発センターが全国の大学の学部長を対象に実施した「質保証を中心とした大学教育改革の課題に関する調査」(以下、「学部長調査」)によれば、ディプロマ・ポリシーを学位授与の方針として明確化している大学・学部は全体の3割。さらに、習得が望まれる能力を体系化して具体的に明記している大学・学部はこのうち2割に満たず、これらは普及途上といえる。
経営戦略上の観点から見ると、こうした取り組みはとりもなおさず、ユニバーサル化した大学市場において、各々の大学が自らのターゲットとすべき市場とポジションを明確化し、訴求力のある人材育成プログラムを組み立て、顧客(学生、企業等)に伝えるチャンスでもある。
ディプロマ・ポリシーの整備をチャンスに変えるためには、貢献しようとする地域社会・産業(市域の場合もあれば、県域、日本全域の場合もあろう)の将来的課題、労働市場の変化の中で求められる人材像の設定と、その能力要件の具体的な体系化が必要である。
その上で、設定した能力を養成する体系的な教育プログラムとしてのコース設計が求められる。また、それに結びつく形で、入試において求める能力と合格要件を設定できれば、受験生や高校の進路指導現場への一貫性あるメッセージとなり、教育機関としての信頼度が高まるだろう。 |