特集
Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
  PAGE 4/55 前ページ 次ページ

全学的な変革を通じた教育活動で就業力を育成

 2つ目は、就業力の育成を条件とした教育と学生支援の総合的な改革である。
 先に、キャリアガイダンスの実施を旨とした大学設置基準の改正が、中教審から答申されたことに触れた。この検討過程で、大学関係者のヒアリングが行われたが、大半の大学の反応は「すでに本学には就職課やキャリアセンターがあるので大きな影響はない」というものであった。
 しかし、今回の改正における文部科学省の意図は、単に大学にキャリアセンターを置いて学生の就職活動支援をすればよい、というものではない。そうした正課外の活動や体制のみならず、専門教育も含めた教育活動全体を通して、社会に求められる自立した人材づくりを進められるように大学全体を変えていくことを求めたものであり、その意味は大きい(図表2)。

図表2:高等教育段階におけるキャリア教育の取り組み

図表3:子どもの進学先選びに必要(大いに+まあ)と考える情報(上位11項目) こうした意味でのキャリアガイダンスを促進するために、文科省は2010年度からの新しい施策として「大学生の就業力育成支援事業」を実施する。地域の産業界と連携した各種の実学的科目開発とその必修化やインターンシップの拡充など、就業力を育成するための各種取り組みに対する経費支援である。2010年度は総額30億円の予算が充てられ、130の大学に対して5年継続で拠出される予定となっている。
 重要なのは、この施策には、就業力の育成を起点とした大学の機能別分化の促進も含意されている点である。文科省の予算資料を見る限り、国はこのプログラムを通じて、就業率の向上を図るとともに、職業人養成に力を入れる大学群を創出し、それを端緒に大学の機能別分化を促進するねらいであると推測される。
 各大学がどのような教育を重点化するかは、貢献しようとする地域の範囲とニーズに即して考えるべきだろう。そこで展開するあらゆる教育活動と学生支援活動の基礎にエンプロイアビリティーの育成を織り込むことにより、結果として、就職という形で社会に有為な人材を送り出すことができる。
 また、その実績は大学の社会的評価、学生募集に直結する。ベネッセ教育研究開発センターが2009年11月、高校生の保護者を対象に実施した調査からも、そのことがうかがえる。「子どもが進学する大学を選ぶ際に必要な情報」として、「入試科目の内容や合格要件」「合格偏差値」などと同等、あるいはそれ以上に、「卒業後の就職実績」や「キャリア教育や就業支援」などの情報が求められている。
 ここからは、就職の可能性を見据えて大学を選びたいという、保護者の考えがうかがえる。また、就業力育成をめざした大学の総合的な変革が、経営上も喫緊の課題であることを示している。


  PAGE 4/56 前ページ 次ページ
目次へもどる
大学・短大向けトップへ