特集 教員養成システムの論点

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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【現場レポート 2】東京大学大学院教育学研究科 学校教育高度化専攻

カリキュラムの3分の1を教育現場での実践的研究に

教職大学院への対案

 東京大学は2006年度、大学院の教育学研究科に学校教育高度化専攻を設置する。「教職大学院」の制度化が具体化する中、それとは一線を画す形で、研究大学としての特色を生かした教育専門家の養成を目指す。同時に学校教育高度化センターを設置し、全国の教育系大学院との共同研究も進める。
 設置の狙いについて、佐藤学研究科長は、80年代の半ば以降、知識社会に対応して教育内容の高度化を図るため、欧米で教員養成を学部レベルから大学院レベルに引き上げる動きが広がったことを説明。
 国内では、児童・生徒を取り巻く環境が大きく変化し、教育現場では従来とは異なる対応を求められるようになってきた。現在、制度化が検討されている教職大学院では、現場を強く意識し過ぎるあまり「授業の展開や生活指導の方法などに重点が置かれ、教育内容の高度化や環境の変化といった本質的課題に応えられない可能性がある。本学の新しい専攻は、教職大学院構想に対案を示すものと考えてもらっていい」と語る。
 学生は、学部新卒と、現職教員、教育行政関係者など社会人が、ほぼ半々の比率になると見込む。東京大学は新しい専攻を、教壇の場数を踏んだ実務家を育てる場所とは考えていない。教育学の理論を踏まえて、様々な立場から(1)教員の指導者(2)教育の研究者(3)教育行政官などの高度専門職を養成することを目指す。
 大学院での教育内容は、詳細がまだ固まっていない部分もあるが、その柱は以下の3点になる。第一は、教育内容の高度化だ。知識社会では、最先端の科学技術や人文・社会科学の知識が必要とされる。世界トップレベルの研究大学である東京大学の学術資産を最大限に活用して、学校教育高度化専攻の学生の担当教科に関する知識水準を引き上げる。
 第二は、教育学の研修を深めることだ。カリキュラム開発の方法、児童・生徒が置かれている社会状況に対する理解、地域との連携の意味など、最先端の知見を集め、教育理論に精通したプロフェッショナルを育てる。
 第三は、専門家教育にふさわしい実践的研究だ。佐藤研究科長は、実践的研究とは理論と実践を統合したもので、「まさにこの専攻が目指す専門家教育の核心」だと言う。法曹教育で実際の訴訟を通して問題解決能力を養う判例研究、医学教育で症例を教材にして医療技術を学ぶ臨床研究などと同様、ケースメソッドを基本とする。この実践的研究が、カリキュラムの3分の1を占め、授業の開発から実施、分析・評価までを行う。
 「教育実習が最低限教壇に立てるだけのスキルをトレーニングするものであるのに対し、実践的研究は、教科教授法にとどまらず、教室の内外で起きる様々な問題に的確に対処できる力を身に付けるもの」(佐藤研究科長)。教育現場に専攻学生が入り、現場の教員、教育学の研究者、教科の関連分野の研究者、心理学者などと共同研究をする。「現場の問題解決に役立たなければ、専門家教育とはいえない。それを指導できるのは学問的体系に精通した研究者であり、本学にはその環境が整っている」。


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