未来をつくる大学の研究室 鳥取という地の利を生かし「人の役に立つ」乾燥地研究に挑む
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研究内容
鳥取発の緑化研究を世界の乾燥地に広げる

 日本には砂漠も乾燥地(※1)もありません。しかし、世界では陸地面積の約41%を乾燥地が占め、世界人口の3分の1に当たる約20億人がそこで暮らしています。乾燥地は、雨が少なく、植物が育ちにくいという特徴があります。そのため、湿潤地域や森林地域に比べて、経済的に貧しい状況になりやすく、人口増加率や乳幼児死亡率が高く、健康・衛生面で多くの課題を抱えています。経済的に豊かで、むしろ人口減少が課題である日本とは正反対の状況です。
 それでは、日本は乾燥地の問題と関係がないのかというと、決してそうではありません。例えば、中国から春風に乗って日本にやって来る黄砂は、黄土高原などの砂漠化が一因ともいわれています。また、石油の多くは、乾燥地の国々から日本に輸入されています。この石油の利権をめぐる世界規模の争いも、乾燥地に住む人々を苦しめる要因なのです。日本が国際社会の一員として、乾燥地を支援するのは当然なのです。
 発展途上国では、燃料にするために木を伐採します。人工衛星からの画像を見ると、村の同心円状に砂漠化しているのが分かります。一方、乾燥地は風力発電や太陽光発電に適しています。工学の研究者と協力しながら、自然エネルギーへの切り替えも促進しています。現在、乾燥地の研究は、医学や経済学とも関係し、学際的な研究へと広がっています。
 その中で、私は乾燥地で植物を育てる方法を研究しています。豊富な油分を含む種子からバイオディーゼル燃料が取れるジャトロファ(※2)(生物学名ナンヨウアブラギリ)に注目し、乾燥地研究センターの研究施設を利用して栽培や実験を重ねています。
 ジャトロファには二つの利点があります。一つは、乾燥地ややせた土地でも育つこと。バイオエタノール生成に使われているサトウキビや、バイオディーゼル燃料に使われているアブラヤシは、乾燥地ではなかなか育ちません。もう一つは、ジャトロファは有毒性植物で、人間はもちろん、家畜も食べないということです。家畜の放牧地にこの木を植えても、食害を回避出来るのです。乾燥地では、収穫した種子だけでなく、栽培に必要な水や土地も含めて、食糧とエネルギーが競合しないことが重要なのです。砂漠の緑化やエネルギーの確保に加え、現地の人々が現金収入を得て、持続可能な生活を営めるよう、ジャトロファの生理生態や栽培法を研究しています。
 ただ、実用化には課題があります。経済的に採算が合えば現地の人たちの手で自ずと植林が進みますが、現段階では採算が取れません。解決策の一つは、品種改良による生産力の向上です。イネやトウモロコシは、品種改良で高い生産力や病気に強い性質などがつくられてきましたが、ジャトロファはまだその段階にありません。今後の品種改良を見据えて、多くの野生種が自生しているメキシコの原生地を調査しています。
 移植の候補地はアフリカのタンザニアです。現地の研究者との共同プロジェクトを立ち上げる予定です。

写真
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ドームの中に乾燥地と同じ環境をつくり、ジャトロファを栽培。更に環境を変え、育ち方の違いを観察・実験している
用語解説
※1 乾燥地 乾燥の程度によって「極乾燥地」「乾燥地」「半乾燥地」「乾性半湿潤地」の四つに分けられる。乾燥の程度は降水量と、地面からの蒸発や植物からの蒸散の比で決められる。
※2 ジャトロファ 学名はJatropha curcas。生物学名はナンヨウアブラギリ。ヤトロファ、タイワンアブラギリとも呼ばれるトウダイグサ科の落葉低木。原産地は中南米。種子は有毒だが油分が多く含まれ、バイオディーゼル燃料に利用できる。

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