第8回【座談会】
    家庭学習におけるデジタル教材の可能性part2(小学校編)

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自ら学習に向かう姿勢を育てるためには、家庭学習にどのように取り組むかが大きなポイントとなる。宿題、学習教材、塾、通信教育など、さまざまなツールがある中、デジタル教材やデジタル機器の活用による家庭学習に注目が集まっている。今回は、デジタル教材を授業などで活用する先生方に集まっていただき、家庭学習での活用の可能性と課題について聞いた。

参加者

中川 久亨 先生   東京都板橋区立板橋第一小学校校長

山本 宙樹 先生   東京都品川区立第一日野小学校教諭5年生担任

菊地 秀文 先生    東京都世田谷区立砧南小学校教諭6年生担任

新井 健一   ベネッセ教育総合研究所理事長

※肩書きは座談会を実施した2013年8月現在のものです。

6年生までに自分で学習する術を身に付けてほしい

 今回は、デジタル教材を活用した家庭学習の可能性についてお話をうかがいたいと思います。まず、子どもの家庭学習の状況について、変化は見られるのか、先生方が日々、子どもと向き合っていて感じられていることをお聞かせください。

中川久亨先生

中川:子どもの家庭学習の量や内容は、以前とそれほど変わっていないと思います。学習する子は家でも机に向かいますし、遊ぶ子は遊んでいます。保護者に言われるから塾に行くという子どもも多いでしょう。子どもは素直で、やりたくないことは自らやりません。子どもに自ら学習する姿勢を身に付けさせたいことは今も昔も変わりませんので、学習に向かえる環境を教師や保護者がつくらなければならないと思います。

山本宙樹先生

山本:私も同じように感じます。宿題を出すねらいは、机に向かう習慣を身に付けることです。しかし、宿題を出しても、ちゃんと取り組んでほしいと思う子どもはやってこなくて、やらなくても大丈夫という子どもはきちんと取り組んできます。そういう様子を見ると、学力や学習姿勢は子どもによって異なるので、宿題を一律に課してよいのかとも考えます。学習内容は前課程より増えているので、家庭学習の重要性は高まっています。なおさら個々に合った家庭学習が大切だと思います。

菊地秀文先生

菊地:授業だけではなかなか習熟できない面もあります。算数の計算を例にすると、1学期に割り算の単元に取り組んだあと、しばらくの間、計算の必要のない単元になります。そうすると、2学期で割り算が必要な単元になった時に、前はできていた計算ができなくなっているのです。算数は知識を積み上げていく教科ですので、知識の定着のためにも宿題は必要です。

山本:小学生の家庭学習は、10分×学年が理想です。それを自分でできる子どもは、着実に力が付きます。しかし、実際にはできない子どももいて、宿題をやっていても殴り書きで終わっていたりします。一方、塾に通う子どもにとってはたくさん宿題を出されると負担になります。そこで、私は、塾に行っている子どもには負担にならず、学習が苦手な子どもにとっては最低限取り組んでほしい量、受け持ちの5年生では集中して取り組めば15分程度でできる宿題を出しています。

中川:中学生になると、定期考査前には部活動も休止になって、職員室にも入れなくなり、自分で試験勉強を進めることになります。小学校では、6年生までに、それができるように育てなければなりません。私は、日本人学校で6年生を受け持ったときに、読書でも調べ物でも、理科でも絵でも、自分のやりたいことに取り組む、自由勉強を奨励していました。面白いと思ったものは、学年だよりに掲載しました。そうすると、その方法をまねする子どもが出てきました。子どもの学習の幅は広がり、まねされた子どもは自分のやり方が認められて、自己肯定感の向上にもつながります。人に教えられて身に付けることだけが学習ではありません。試行錯誤をして、小学校6年間のうちに自分のやり方を見付けてほしいと思います。

菊地:家庭学習というと、子どもも保護者も、学校から出された宿題や、漢字の書き取りや計算練習など市販の学習教材に取り組むことだと捉えています。しかし、中川先生がお話しされたように、読書や調べ物も学習です。今、多くの家庭にはパソコンやタブレット端末があり、私が去年受け持った4年生では、3分の2の家庭でタッチデバイスがありました。子どもは、それを使って調べ物をしたり、写真を撮ったりしています。その過程で新たな発見があれば、それも学習になると思うのです。そう考えると、家庭でできる学習はだいぶ変わってくるのではないでしょうか。習熟的な学習は変わらず必要ですが、環境の変化によって新しい学習スタイルも生まれてきていると感じています。

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基礎学力の向上に、デジタルの利点をどんどん生かす

 先生方のお話から、小学校段階ではいかに自分に合った学習習慣を付けさせるかが、家庭学習の役割であることがわかりました。今回はその課題を解決する手段として、デジタル教材がどう活用できるかについてご意見をいただきたいと思います。現在、デジタルを使ったいろいろなサービスや機器がありますが、先生方はどのようなものが家庭学習に有効だと思いますか。

菊地:私の子どもの様子を見ていると、カメラ機能は魅力的だと思います。日常では素通りしてしまうことでも写真に切り取ることによって、写真を見比べたり、気付いたことを書き込んだりと、じっくり振り返ることができます。そうした発見をしたときに、親が「いいところに気付いたね」など声を掛けることで、子どもは自己肯定感を持て、どんなことが学習になるのかを学べます。

山本:授業でも、写真は有効に使えます。例えば、植物の成長は、従来なら絵を描いて記録に残していましたが、写真に撮りためて、変化を考えながら、最後にプレゼンテーションソフトを使って発表するという方法も考えられると思います。

菊地:自分で描いた絵を撮影して、スライドショーでパラパラマンガにしたり、自分がその日に学習したことを撮影し、組み合わせて学習履歴を残したりと、いろいろな活用法が考えられると思います。ICTの先進校の研究発表を見ても、成功している学校はタブレットのカメラ機能を活用しています。

山本:私が注目しているのは通信機能です。学習習慣が身に付いていない子どもは、保護者が忙しくて、子どもにあまり関わっていられないという背景がある場合があります。子どもの学習状況を保護者にメールなどで連絡してくれる教材があるそうですが、忙しい保護者をカバーするためにも有効だと思います。ただ、「学習の状況」というと、「やっているから安心」「やっていないから注意しよう」と進捗だけに目が向きがちです。そうではなく、会話のきっかけとなる材料と捉えてほしいと思っています。そして、「ここまでやって、よく頑張った」「ここが出来てよかったね」と子どもを褒める材料として活用してほしいと思います。

中川:なんでも継続するには、他人に褒められ、自己肯定感を持てることが重要です。通常の宿題でも、提出させ、コメントを書いて返却するなどして、子どもの努力を認める機会を設けている先生はたくさんいらっしゃると思います。同じように、家庭学習も、自学だからと、子どもに任せ、やらせっぱなしにするのではなく、他者に認められる機会が必要です。その点、通信機能を使えば、保護者だけでなく、全国の大勢の人に学習の成果を知らせることができるかもしれません。全く知らない人からも認められる機会が生まれる可能性だってあるのです。

菊地:通信機能があれば、違う場所にいる複数の児童が一緒の時間にログインして同じ教材を使うことも考えられます。1人では学習できないという子どもでも、他者の存在を感じながら学習に向かうことができるでしょう。

 デジタル教材は、受け身な学習になりやすいという指摘もありますが、どうお考えでしょうか。

中川:確かにデジタル教材は与えられることが多く、それによる弊害はあるかもしれません。しかし、それよりも今は、可能性に目を向けて、いろいろな手法を試すときだと考えます。従来の学習方法では基礎学力が身に付いていない子どもたちが、興味・関心を持って学習に取り組めるように支援する手段として、デジタルの可能性は大きくあると感じるからです。子どもは、学習が面白いと思ったら、自ら取り組み始めます。そのときには、デジタルに限らず、図書館に行く、壁新聞を作るなど、自分の好きな方法で、自分がやりたいようにさせればよいのです。学びのきっかけを提供するために、どんどんデジタルを導入すべきです。

山本:私もそう思います。デジタルを活用すれば、先ほどお話ししたようなメリットがあると感じており、まずは可能性に目を向けた方が良いと思います。

菊地:デジタル機器は、自分1人で学習を進めるのが難しい子どもを支援するのにも有効です。去年受け持った4年生のクラスで、視写能力の調査をしたところ、2分間で、多い子どもは100字、少ない子どもは10〜15字と、大きな差がありました。つまり、視写が苦手な子どもにとって、板書を写すだけでも学習に困難を感じるわけです。そこで、デジタル教材を使って授業を進めたところ、視写能力の低い子どもも考えることに集中できるようになり、高い学習成果が見られました。家庭学習も同じです。字がうまく書けなくても、ワープロで入力すればいいですし、文字を読むのが苦手でも、音読機能を使えば耳で聞いて理解できます。自分1人では学習できなかったことが、デジタル教材を使うことで1人でも学習を進められるようになるのです。この自分でできたという自己肯定感が、もっと先の学習へと進ませるでしょう。

新井健一

新井:先生方のお話を聞いて、自己肯定感に結び付けるために、個人の変容を本人が一番感じられる方法は何か、そこを考えていくのが、家庭学習におけるデジタル活用のポイントになると感じました。デジタル機器は、ノート、鉛筆、黒板と同じような学習の道具となりつつある成長期です。先生方がおっしゃるとおり、弊害をあまり考えずに、メリットを最大限に生かせるような方法がどんどん出てくることを期待します。

 本日はありがとうございました。

2013年10月11日 掲載

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