初等中等教育研究室

調査・研究データ


  【分析1】勉強が「好き」な子どもの学習レリバンスの分類と構造

(2)勉強が「嫌い」から「好き」に変わった子どもはどのような子どもか

アンケート調査とインタビュー調査において、勉強が「嫌い」から「好き」に変わったと回答した子どもを3名取り上げる。(1)と同じように、彼/彼女たちの成績とともに、好きである理由をどのように語るのかを確認し、保護者との関わりについても検討することにしたい。



事例4【05fさん】の家庭環境

<家族総出で勉強を見る>

05fさんは学校の出来事やテストの結果などを母親と話し、勉強でわからないところは父親と母親と兄から聞くことが多い。自分で勉強を進めるというより、家族に大きく依存している。学校では「(数学は)公式だから覚えなさいよ、みたいな感じで教えてもらって」、それでも解けないときに、理系クラスの兄に聞いているのである。

勉強の内容は教わっているが、勉強の面白さについては教えてもらうことはほとんどなく、「(勉強は)むしろ大変だよ」と言われているという。05fさんの語りでは家族に協力してもらって勉強を教わっていると示されたが、下記の母親の語りでも家族総出でわからないところに取り組んでいることが強調されている。

国語の文法が、もうつまずいてて、なんかいつも小テストで追試だ、追試。結局それは、先生にも聞きづらいし、本人も元々苦手だから、あれだけど。じゃそれ、どうやって克服するのって言って。もう、家族総出で見たりもするけど、「確かに05fちゃん、頭でっかちで、頭が固いから、これ、理解するの難しいよね」とか言って、親もみんな悩んだり。でもまあ、家族で見てあげたりとかもしてますけど。うちの主人の話は、得意は伸ばせ、苦手は克服だって、そう05fちゃんには言うんですけど。難しいですよね、ほんと苦手なものはね。

<05f、保護者(母親)> 

父親は上記のように「得意は伸ばせ、苦手は克服」と05fに言うが、母親としてはそれが苦手なのだから「難しい」と考えている。

<女の子としての将来>

また、進学先についても母親は「05fちゃんの中で頑張ればいいからね」と高い地位達成を求めていないように見える。

親の希望としてはありますよ、偏差値の高い学校って。でも、私は05fを見てる限り、ちょっと天真爛漫な性格だから、なんかやっぱり自分に合ったぐらいのところで、そこで頑張ればいいよと言うけど、この前、なんか私がそういうこと言ったら、「ママはすぐにそういうふうにいいよって言ってくれる」、なんか「もっとそれは言わないの?」って、逆に。「もっと上を目指せとか、言わないの?」って逆に言われて。なんかそんなこと言ったら、この子、傷ついちゃったり、プレッシャーなっちゃう。だから、私、今まであまり言わなかったけど。そう、「05fちゃんの中で頑張ればいいからね」とは、ずっと言ってたけど、もしかしたら、少しお尻叩いてもいいのかなとは思ったり、どうなんでしょうね。

<05f、保護者(母親)> 

「天真爛漫な性格」でかわいいと思っている子どもに対し、「自分に合った」ところで無理をしないように伝えている。それに対して、05fは少し不満を示している。そのような中、母親は05fのできる範囲で頑張れば良いと考えつつも、「少しお尻叩いてもいいのかな」と迷っている。本田(2004)は、「小学校段階では「学習レリバンス」、特に「現在的レリバンス」を感じることができていた女子が、中学校段階でそうした感覚を急速に喪失してしまう」(p.96)ことを指摘し、「女子は家族から背中を押してもらわないことには学習や達成に取り組みにくい」(p.91)と述べている。

05fさんは家族との関係は良好でありながらも、母親から地位達成の期待が向けられていないことが、05fさんの学習レリバンスにどのような影響を及ぼしているのか、下記で示すことにしたい。


事例4【05fさん】の勉強が好きな理由/勉強をする理由

<「大っ嫌い」から「方程式が楽しい」へ>

(中学受験で)小学校の勉強と塾の勉強を並行してやんなきゃいけなかったりとか。塾もテストとかもあって、小学校もあって、なんか宿題もあって。算数が苦手だったんですよ。算数の先生がすごい厳しい先生で、宿題とかもドンと出してくる感じの先生だったので。中学受験とかでやったことを解いてみると、やっぱ小6のときは、なんか今で言う方程式の部分を四角にして解いたりとか。そういう、なんで四角なのみたいな、それのそういうところがもう大っ嫌いでした。

<05f、子ども、成績中位> 

05fさんは小学校段階における勉強の面白さについて言及していなかった点において、現在的レリバンスを感じていなかったと言えよう。むしろ、方程式を例に挙げながら、「なんで四角なのみたいな」そういうところが「大っ嫌い」と言うほど、勉強の面白さは感じていなかった。しかし、中学校に入って特定の単元である「方程式」に入ると勉強が「すごい楽しい」と感じるようになる。

夏休みもあるので、もうそこで一気に復習とか、問題集とかも一気に解いて、なんか(勉強を)追いつかせて。9月は方程式分かるとすごい楽しくて。12月、1月までは方程式だったんですけど、そこら辺まではもうすごい好きでしたね。

<05f、子ども、成績中位> 

一方で、特定の単元が楽しいという理由で現在的レリバンスを感じるということは、他の単元になったら現在的レリバンスを感じることが困難になるという不安定さを持つ可能性がある。続いて、05fさんが勉強をする理由について検討したい。

<英語のクラス分けに対する目標>

[調査者]05fさんが、勉強する理由って、1番の理由ってなんですか。やっぱり将来ですかね。将来の大学に入ったり、その後、そういう就職したりしてっていうのを実現するため?

[子]うちの学校が、英語のクラスもあるって言ってたんですけど、もう一つ、8クラスあって、アドバンスドっていう、ちょっと難しめのやつのクラスがあって、私は下のほうのコアクラスに合格したのでそっち(コアクラス)に入ってるんですけど、毎回毎回、届け出を出して、成績とかそういうテストの点数とか良ければ上に上がれるんですよ。アドバンスドクラスにもやっぱり行きたいので、そこを目指して、今、勉強したりって。

<05f、子ども、成績中位> 

05fさんは勉強をする理由について「将来」を挙げている。05fさんは将来の夢について「化粧品の開発」をやってみたいと考えており、それを実現することも視野に入れつつも、インタビューで強調されたのは、英語の授業における「アドバンスドクラス」に行くという目標であった。

母親からの地位達成における期待は大きくないが、05fさんの場合「受験のときは、あなたは、なんか、今の学校に入れればいい、みたいなことは言われてんですけど、今は一応、私のアドバンスドクラスに行きたいって言えば、あなたが行きたいなら私は応援するよみたいな感じで、一応、支えてもらってはいます」と述べており、結局は05fさんの希望は否定されず、「むしろ賛成」されているということが、05fさんの現在的レリバンスと将来的レリバンスを見出すことを可能にしていると考えられる。

05fさんの家族の全面的な協力によって、現在的レリバンスと将来的レリバンスを見出すことができている一方、語られた現在的レリバンスは特定の単元に関する勉強の面白さであったり、将来的レリバンスに関しても、強調点は英語のクラス分けに関することであったりする点において、学習レリバンスの内容や時間軸が前節で検討した子どもたちとは異なっている。つまり、前節の事例1~3の子どもたちは、勉強そのものの面白さに関する現在的レリバンスであり、卒業後の比較的「遠い将来」を志向した将来的レリバンスであったが、05fさんの場合は特定の単元に関する勉強の面白さという現在的レリバンスであり、比較的「近い将来」を志向した将来的レリバンスなのである。



事例5【06fさん】の家庭環境

<暗記のアドバイス>

06fさんは父親と母親とよく会話をしており、父親とは「くだらない話」もするし、ニュースのことや学校の課題についても話す。母親とは「くだらない話ばっかり」しているという。また、「中学の1年生の英語でつまずいてから」、「高校受験の準備し始めなきゃって思って、今、塾を探している途中」であるが、それは父親から「早めに手を打っとかないと」と言われたためである。社会は父親が得意ということもあり、「教科書の文章を写して、重要なところを赤ペンで書いて赤シートで隠して覚える」という勉強の仕方を教わっており、理科も同様のやり方でテストに臨んでいる。このような勉強の習慣は父親からのアドバイスによるものである。テストが返ってきたらその日に見せることが小学校のときから決まっており、点数が落ちたり勉強していなかったりすると父親から叱られるくらい、父親は06fさんの成績を把握している。

<高校受験への準備>

また、父親とは進路の話もしており、06fさんの「コミュニケーションを取るのが苦手」な性格からも将来は「安定している研究職」を勧められている。それは「人工知能に持っていかれ」ないような「いろんな発想が必要になる仕事」が重視されていくと考えているためである。といいつつも、06fさんは大学でどの学部に行きたいのかについてはまだ決めていない状況である。

06fさんの学習状況について、父親が勉強を教えたり、母親が通信教材を週末にやるように声をかけたりすると語られた。高校受験については下記のように、家族で話し合って受験塾を探している状況であることが母親へのインタビューからも示されている。

もう高校受験があるので、2年生から、今ちょっと塾のほうを探してまして、そちらでは勉強の進め方とか、計画を立てるのがまだ身に付いてないので、そういったものをちょっと2年生の間に身に付けて、中3の受験シーズンに備えたいなあと考えてる感じですね。本人も、まあすごく成績がいいわけではないんですけど、そんなに勉強が嫌いなタイプではないので、もうできれば、ある程度いい偏差値のところに行きたいっていう希望も若干持ってますんで、嫌がらないタイプなんだったら、それをしてほしいなと思ってるので、その手助けができればなというふうに思ってます。…小学生のときは(勉強を教えるのが)対応できてたんですけど、やっぱり中学校になると、勉強の内容が難しくなってきて、教えきれないところが出てきてしまったので、ちょっと塾に頼ろうかなと考えるようになりました。

<06f、保護者(母親)> 

受験塾を探している理由としては次の2点が挙げられる。1つは、母親の語りからも、06fさんの高校受験に関して「ある程度いい偏差値のところ」へ進学することを望んでいるためである。このように、母親として受験を「手助け」したいと考えており、地位達成の期待を向けている。2つ目は「中学校になると勉強の内容が難しくなってきて、教えきれないところが出てき」たためである。同時に、塾で「勉強の進め方」や「計画を立てる」ことを身につけ、受験に臨んでほしいと願っている。

そして、これらの語りからは06fさんは父親から勉強の仕方を教わっているものの、勉強の進め方や計画の立て方といった勉強を進めていく方法については06fさんに定着していないと母親は考えているということになる。小学校と中学校では勉強の内容の難易度が上がることによって、教えること自体が困難となっており、それを塾に任せようとしているのである。


事例5【06fさん】の勉強が好きな理由/勉強をする理由

<「先生が嫌い」だと授業を聞かない>

06fさんは「勉強は、面白いとこは面白いんですけど、偏りが大きいです」と語っているように、教科によって好き/嫌いの偏りがある。先生に対する好き/嫌いが教科の好き/嫌いと関連していることもあるし、先生は嫌いだけど、教科書を読んでいる分には楽しいということもあり、教科の好き/嫌いを分ける要因は明確ではない。下記の語りでは、特に、国語の文章問題や説明文が好きになった理由について、「読む内容が(小学校と)変わった」ことで「面白い」と感じていると述べられている。

[子](前は好きじゃなかったけど、中学校の)国語はなんか文章問題とか、説明文とか、すごい面白いなって。

[調査者]ああ、なるほどね。なるほど、なるほど。先生が変わったからとか、そういうものよりも、なんか読む中身が変わったって感じ。

<06f、子ども、成績下位> 

06fさんは05fさんと同様、特定の単元や教科が面白いという理由で現在的レリバンスを感じており、他の単元や別の教科では現在的レリバンスを感じることが困難になる可能性があるという点において、勉強が「好き」な状態を維持することに関して不安定さを持っている。

<テストのために勉強する>

下記では、06fさんが勉強することに関しては「宿題」や「英単語と漢字」に言及している。インタビュアーのテストのために覚えているのかという質問に肯定しており、テストのために毎日コツコツ暗記に力を入れていると語っている。

[子]宿題はちゃんとやります。あとは、英単語と漢字をやっています。

[調査者]はい、はい。毎日やってるって言ってたね。ああ、毎日やって。そういう勉強も、もうテストのために覚えるっていうふうにやってるんですか?

[子]なんか早めからやらないと、一気に覚えるの大変なんで、もう慣れとこうって感じで。

[調査者]暗記が苦手なわけではない?

[子]暗記は得意なほうです。

[調査者]でもちゃんと準備しとこう?

[子]すごい凡ミスが多いんで、そういうのが。なんかスペルをちょっと間違えたりとか、先生に認識されなかったとか。

<06f、子ども、成績下位> 

06fさんは父親から「研究職」を勧められつつも、具体的なことは決めておらず、勉強をする理由も将来のことに言及することはなかった。つまり、勉強をする理由はテストのためという短期的な未来への志向であると言えよう。



事例6【03mさん】の家庭環境

<テストで結果を出せるように手伝う>

03mさんは学校の人間関係について話せるほど家族全員とコミュニケーションを取っている。勉強について母親からアドバイスを受けることはほとんどないが、休みの日にどの科目も学年末のノートまとめを手伝ってくれている。そのため、点数が低いときに母親から「あんなに勉強したのになんで上がらないのか」という話をされることがある。また、高校進学に関して、母親が学校見学に行って03mさんに勧めているくらい、母親が03mさんの勉強面に関して熱心である。

しかし、勉強のアドバイスに関しては塾の先生がしてくれているという。学校の授業に関しては「塾の先生と学校の先生の教え方が合って」いるため、例えば木曜に塾でやったことを金曜に学校で習うということがあり、学校の勉強がわかるようになっている。しかし、「期末や中間で結果が出せない」ことに悩んでいる。結果が出すためには、03mさん自身は国語の漢字や社会や理科も「覚えたらほぼ全部解けるような問題」であるため、暗記をするように「改善していく」ことであると考えている。

<勉強をさせるために条件を課す>

一方、以下の母親の語りでは03mさんの持つ勉強に対する苦手意識にどうかかわっていくのかという点に困難が見られる。「勉強に対する拒否反応がすごい」ために、小学校1年生のときから「(勉強を)あまりやらせなかった」という。その結果、「みんなに遅れをとって」しまったと感じている。

うちの子、勉強をほんとにしなくって、それで何回ももめてるんですけど、私と。最低限、学校の宿題と塾の宿題は怒られるからやってくんですね。それは、クリアしてるみたいなんですけど、その他の毎日の学習っていうのが、どうしてもできたらしたくないので、そこはこっちが言うときじゃないとやり始めない。で、10分やって、やったじゃんみたいな、すごい威張ってくる感じですね。…うちの母が保育園んときに、幼児教室やってて教え込んだので、彼ん中で勉強に対する拒否反応がすごいできちゃったんです、そのときに。私から見ててなんですけど。そうなんです。だから、勉強っていうと、もう血の気が引いたような顔色んなってみたいな感じなので。かわいそうで、私、小学校1年生んときはあまりやらせなかったんですね。でもそこが失敗の元で、またまた。もうずっとみんなに遅れをとってみたいな感じですね。

(中学入ってからLINEばかりなので)「勉強やらないんだったら、携帯を解約する」って、今、言って、すごい焦ってしようとはしてるんです。そういうなんか、制限というかを持たせないと彼はやり始めないんじゃないかなと思って、最近、そういう、とても彼にとったら痛いであろうことを条件を今回出してます。

<03m、保護者(母親)> 

母親は勉強が苦手な意識を持つ03mさんを勉強に向かわせようとしており、毎日の学習について言い続けているが、なかなか本人自身がやる気を見せないことに悩んだ結果、中学校に入って勉強をさせるために「勉強やらないんだったら、携帯を解約する」という条件を出している。

母親の関わりとしては、ノートのまとめを手伝うことや志望校を決めるための学校見学への参加など、積極的である。しかし、03mさん自身が勉強をすることの意義については認識していないために、学習する習慣が身についていなかったり、勉強のやり方を自覚しつつも実現できていなかったりしている。


事例6【03mさん】の勉強が好きな理由/勉強をする理由

<特定の単元への興味>

03mさんは下記の語りにあるように、特に数学に興味を持っているが、それはグラフの形の不思議さや展開図への興味、割り算の式の書き方への疑問からである。割り算の式の歴史については、パソコンで調べたりしており、割り算の解き方について関心を持つというより、割り算の式の形状に関心を持っている。

[調査者]どういうところが(好き)?

[子]比例とか、反比例とかのグラフあるじゃないですか。それの、比例のときはまっすぐで、反比例のときが曲がるっていうのが不思議だなって思って、そういうのに興味持ち始めて。あと、展開図とか、そういうのに興味があったりしてて。言葉も面白いし、とかなって、そういうのが。

(11月ぐらいに「好き」のグラフが下がったのは)たぶん数学とかで、1回先生に、勉強してたら、この勉強方法じゃ、君は一生、たぶん一生ではないけど、成績が上がんないって言われたんで、嫌いになってきて下がったってかんじ。(今好きなのは、数学担当の他の先生が)慰めてくれて(好きになった)。

<03m、子ども、成績下位> 

03mさんも05fさんと06fさんと同じように、勉強が好きであるかどうかは単元によって異なっている。また、03mさんは先生からの働きかけによっても、嫌いになったり好きになったりしている。また、進学先についてもずっと続けている習い事が活かせる部活動の有無や自宅から自転車で通えるかどうかが決め手となっており、将来の夢に言及した語りは見られなかった。



 調査・研究データ「中学1年生親子インタビュー調査2016」



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