第7回【座談会】家庭学習のあり方とデジタル教材の可能性(中学校編)

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スマートホンやタブレット端末などのデジタル機器が、中学生にも普及しつつある。デジタル機器を使用した質の高い家庭学習の方策はないだろうか。デジタル教材にも詳しい中学校の先生方と研究者に集まっていただき、その課題と解決の方向性についてお話をうかがった。

参加者

石田 陽平 先生   東京都武蔵村山市立第三中学校、英語科担当

大江 秀和 先生   東京都荒川区立第五中学校、技術科担当

原田 徹 先生    神奈川県川崎市立川崎中学校、数学科担当

前田 光男 先生   東京都練馬区立谷原中学校校長

中村 隆之 先生   神奈川工科大学情報メディア学科准教授

※肩書きは座談会を実施した2013年3月現在のものです。*司会:「BERD」編集部。

褒められたい子どもたちが増えている

 今回は、家庭学習におけるデジタル教材の活用について、先生方からご意見をうかがいたいと思います。
 まず、子どもの家庭学習の状況ですが、中学校の先生方に生徒の家庭学習の状況についてお話をうかがうと、多くの先生方が「今の中学生は家庭学習の習慣が身についていない」とおっしゃいます。
 一方、ベネッセ教育総合研究所の実施した「高校受験調査」(2011年) では、6割を超える子どもたちが高校受験の悩みや不安として、「何を勉強すればよいのかわからなかった」と回答しています。また各方面から、近年の経済情勢から保護者は忙しく、子どもへのケアが不十分になりがちであることも指摘されています。
 教育現場で日々子どもたちに接しておられる先生方は、学習に関してどのようにお感じでしょうか。

石田陽平先生

石田:私は、社会で求められている基礎力のひとつと言われている「計画力」が子どもたちに不足しているのではないかと感じています。学習意欲とも関係しますが、「ここはテストに出るから勉強するように」と言っても、学習意欲につながらない生徒も増えてきています。

その一方で、授業の始めに5分間DS(携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」)を使った予習を取り入れているのですが、子どもたちは一生懸命に学習します。その後の授業に、やったことがすぐに役立つことがわかっているからだと思います。

原田徹先生

原田:最近の子どもたちを見ていて、褒められたがっているのではないかと受け止めています。

宿題を出さないと、子どもたちはどうやって一人で勉強したらよいのかわからない。そのため毎日、各教科5〜10分程度で解けるようなワークの問題などを宿題に出しています。宿題をやってきたことを教師が褒めると、子どもたちはとても喜びます。達成感が得られるからでしょう。

ただ、このような家庭学習では、自分で考えて勉強するという力が不足したままですし、簡単に解けるような宿題では考える力には結びついていかないでしょうから、それが課題となっています。

大江秀和先生

大江:私は、親子のコミュニケーションが少ないことが課題だと感じています。経済的な理由から保護者が夜遅くまで働いていて、子どもと話をする時間があまりとれないという家庭も増えてきています。家庭でも社会でも褒められる経験が少ないため、中学生は褒められたがっているのではないでしょうか。

難度は低くても、彼らが正解できて保護者にも褒められるような宿題を出すと、喜んでやってきます。ただ、それだけではテストの点には結びつきにくいので、宿題に出した中から同じ問題を1問出すというような工夫をしています。テストで点が取れれば保護者から褒められますから。

前田光男先生

前田:保護者が最も関心を持っていることは、子どもの学力アップです。ただ、問題なのは、保護者が考えている学力というのは、保護者が理想とする高校に合格する学力です。高校に合格するために学習塾に通っている子どもがたくさんいるため、学校の宿題が多いと困るというのが実情ではないでしょうか。

家庭学習でしてほしいのは、繰り返し学習です。漢字や英単語、数学の公式など基本的なことがらは覚える必要があるのですが、これらは学校の授業の中ではあまり時間をとることができません。しかし、目の前の課題をこなすだけは思考力は身につきません。学校の授業では、子どもの意欲を刺激し、思考力を高められるように、教師の指導力を向上させていく必要があります。

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家庭でのデジタル教材を用いた協同学習の可能性

 今後、家庭学習の質を高めるためのひとつの方策として、デジタル教材をどのように活用していくとよいでしょうか。

中村隆之先生

中村:私はずっとゲーム開発に携わってきましたが、教材にもゲームのノウハウをうまく取り入れられるとよいと考えています。

「コンピュータに褒められたら嬉しいか」という問いがあったとしたら、私は、確実にYESと言います。なぜなら、子どもたちがコンピュータゲームに夢中になるのは、ちょっとしたことでもすぐに褒められるということがあるからです。しかも何回も繰り返し褒められても不快にならない褒め方がゲームの中に組み込まれていると思います。

また、繰り返し学習にデジタル教材は向いていると思います。自分が解決できた段階を「ブロンズ」「シルバー」「ゴールド」というようにレベルで分け、もっと学習したくなるような仕組みをデジタル教材に取り入れることは有効でしょう。それと、間違えたとき、コンピュータになら「違うよ」と言われても、あまり落ち込まなくて済むというメリットもあります。

働いていて家庭学習を見てやれない保護者には、学習成果をメールで流すというシステムもよいかもしれません。それを見た保護者が子どもにメールで褒める、というようなことも想定できます。

それから、デジタル教材に競争を持ち込んだときに、燃える子とモチベーションが下がる子がいます。特に、女の子は競争というとモチベーションが下がり、協力というと上がる傾向があります。そのため、協力を含めた競争を組み込むと多くの子どもにより効果的だと考えられます。

石田:最近、注目されている協同学習ですが、私も宿題を出す際に「ジグソー法(※)」を取り入れています。たとえば、英訳の宿題ではパラグラフ(段落)ごとに分担を決め、次の授業で発表させることで、生徒一人ひとりに出番をつくり、褒める場面をつくる工夫をしています。

このような協同学習が、デジタル教材を用いた家庭学習でできるようになればよいのではないかと思います。たとえば、ある問題を回り持ちで解きます。回答できた子は友だちから「できたね」と承認されることで自尊感情が生まれます。また、解けなかった子は、他の子から解き方を学ぶことができるというような方法が考えられるのではないでしょうか。

※注:「ジグソー法」……ひとつの長文をグループの人数で区切り、一人ひとりが一部分を担当。全員で持ち寄り、協力して全体を学習する方法

原田:デジタル教材でアイドルが授業をしてくれたら喜ぶでしょうね。そして、問題ができたら、「やったね!」というような言葉が返ってくると、夢中で学習するようになるのではないでしょうか。アイドルも、何人か登場するようにして選択できると、子どもたちは毎日教材を選べて嬉しいかもしれません。

学習のレベルは地域や学校により異なりますので、習熟度に応じた教材の開発をしてもらえると、より学習効果が期待できます。

前田:私たちが追究していきたいことは、子どもたちの学力を定着させ、次の学習につなげていくことです。そのためには、デジタル教材を用いた家庭学習とセットで、たとえば授業で類似問題を紙で出題するなどの工夫をしていくことが必要だと考えます。

中村:何十年とコンピュータなどデジタル機器の潮流を見てきましたが、ある程度その機器が普及してくると、処理速度が上がり、消費電力が低くなり、容量が大きくなり、安くなっています。世界的な潮流から見ても、近い将来、確実にデジタル機器が学校で普及し、一人1台の時代が来ると思います。ハードの普及に負けないように、中身の検討を推進することが必要です。

 本日はありがとうございました。

2013年4月25日 掲載

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