第1回【ベネッセ研究員より】
    推薦・AO入試−接続の観点から学生の意識・実態を探る

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ベネッセ教育総合研究所 研究員 吉本 真代

【概要】

 現在、国で大学入試改革の議論が行われている。改革の背景の1つに、拡大、多様化し、その内実が見えにくくなっている「推薦・AO入試」の問題がある。「推薦・AO入試」は、本来は教科学力試験では測ることのできない能力や意欲、高校での学習状況などを多面的に評価するものである。その趣旨のとおり、よい学生が選抜できているという大学もあれば、広く学生を受け入れ、入学後に課題を抱えている大学もある。特に、選抜性の高い大学かそうでないかで入試の様相が大きく異なっていることは言うまでもないだろう。そこで、今回は「第2回大学生の学習・生活実態調査」から、入試難易度(偏差値*1)をキーにして、「推薦・AO入試」の学生と「一般・センター入試」の学生の意識の違いを概観する。

*1 大学の入試難易度(偏差値)は2011年度 第3回ベネッセ・駿台マーク模試・11月の偏差値(B判定基準[合格可能性60%以上80%未満])を用いている。

中間層で顕在化する学力面の課題

調査では、高校までの学習と大学での学びの接続の状況をみるために、「大学で学ぶ上で、高校までの知識・理解が不足していると感じている(高校の)科目」をたずねている。最も高かったのが「英語」の48.4%であった(図1)。

図1. 高校までの知識・理解が不足している科目(全体)

高校までの知識・理解が不足している科目(全体)

注1)複数回答    注2)科目数は「その他」「特になし」を除く科目の選択数

「英語」は学力試験を経ていれば、最も多くの人が受験する科目である。そこで、「英語」について、さらに「一般・センター入試」受験者と「推薦・AO入試」受験者(指定校推薦、一般推薦、AO入試を含む。以下同)に分けて、入試難易度(偏差値)別にみたものが図2である。どの層でも「推薦・AO入試」の方が高いが、特に偏差値「45-55未満」「55-65未満」で差が約12ポイントと大きい。英語力には学力入試の経験の有無がある程度影響しているようだ。ただし「45未満」では、「一般・センター入試」受験者の比率も高くなるため、差が縮まっている。

図2. 高校までの知識・理解が不足している科目「英語」 (入試難易度×入試方法別)

高校までの知識・理解が不足している科目「英語)

注1)○は10ポイント以上の差がみられるものを表す。     注2)( )内はサンプル数

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図3. 高校までの知識・理解が不足している科目の数
        (入試難易度×入試方法別・平均値)

高校までの知識・理解が不足している科目の数

注1)<は平均科目の差が0.5以上のものを表す。
注2)サンプル数は図2に同じ。

また、図3は、選択した科目の数(=知識・理解不足科目数)の平均値である。偏差値「65以上」では入試方法別にあまり違いがみられないが、65未満で「推薦・AO入試」の方が0.5~0.6科目多く、入試難易度が下がるにつれ科目数が増えていく。

では、「授業についていけない」と感じている学生の比率(「とてもあてはまる」+「まああてはまる」の%)はどの程度だろうか。図4をみると、「45-55未満」の中間層で「推薦・AO入試」の方が11.7ポイント高く、半数にのぼっている(50.7%)。

図4. 「授業についていけない」と感じている割合(入試難易度×入試方法別)

「授業についていけない」と感じている割合

注)[ ]内は「とてもあてはまる」+「まああてはまる」の合計(%)を表す。

「推薦・AO入試」が学力の評価のウェイトを下げている以上、ある程度の学力の差はあって当然かもしれない。しかし、「授業についていけない」と感じている割合が中間層で高いことは問題である。例えば、「一般・センター入試」と「推薦・AO入試」の学生で学力の幅が大きいなど、何らかの課題があることが考えられる。

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「推薦・AO入試」受験者間で大きく異なる高校時代の学習習慣

次に、学習習慣に着目してみたい。図5は学習習慣を表す指標として「予習」「復習」「継続的な勉強」の3項目をとりあげて比較をしたものである。これは、同一人物に高校時代(振り返り)と今の大学での状況についてたずねた結果である。

高校時代に「授業の予習(復習)をしていた」比率(「とてもあてはまる」+「まああてはまる」の%、以下同)は「65以上」では、「推薦・AO入試」の学生の方が高いが、入試難易度が下がるにつれて逆転する。

「自分の意思で継続的に勉強した」も、55以上では入試方法別に違いがないが、入試難易度が下がると差が拡がっていく。一口に「推薦・AO入試」受験者といっても高校時代の学習習慣には大きな違いがある。

しかし、大学入学後は、3つの項目とも、入試難易度の高い層で比率が下がり、低い層では上がっており、入試方法別の差は縮小している。高校では、受験による学びのインセンティブの有無が学習への取り組みに影響を与えている部分が大きいが、大学に入るとそれがなくなる分、差が縮まるということだろう。高校までの教科学習と異なる大学での専門的な学びは、専門分野を選択する目的を重視して大学を選択した推薦・AO層の意欲を促す面があるのかもしれない。

図5. 高校時代と大学での「予習」「復習」「継続的な勉強」の比較(入試難易度×入試方法別)

高校時代と大学での「予習」「復習」「継続的な勉強」の比較

注1)数値は「とてもあてはまる」+「まああてはまる」の%。     注2)サンプル数は図2に同じ。

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高校までの基礎学力の不足を補うのは学生自身か大学か

最後に、少し視点を変えて、「高校までに習得すべき基礎学力の不足」について、「大学が授業で指導すべきだ」と「学生が自主的に補うべきだ」のどちらの考えに近いかをたずねた結果をみていきたい。どの層においても、「推薦・AO入試」の方が「大学が授業で指導すべきだ」の割合が高い(図6)。これについてはここまで「一般・センター入試」受験者との差異があまり見られなかった「65以上」も例外ではない。特に「45未満」では51.8%と2人に1人が「大学が授業で指導すべき」と考えている。大学が入試の段階であまり学力を問わずに受け入れた学生は、図3からもわかるように、大学で学ぶレディネスに関して不足感が高く、入学後のケアを大学に期待している学生が多いといえる。

図6.  「高校までに習得すべき基礎学力の不足を補う主体」についての考え(入試難易度別)

「高校までに習得すべき基礎学力の不足を補う主体」についての考え

社会で多様な能力が求められるようになる中で、学力入試だけでない、推薦・AO入試のような多面的な能力の評価・選抜は、多少形を変えたとしても、これからも続いていくだろう。大学が、入試で求めるものは何か、入試で問わなかったものについて、どのようなフォローをしていくのか、入学前教育、リメディアル教育、初年次教育、学習支援環境の充実など入学前後の時期をトータルにとらえて、各大学の入学者の実状に合わせ、適切な時期に効果的に支援が行われるような仕組みを検討していく必要があるだろう。[END]

2013年6月3日 掲載

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