「データで考える子どもの世界」

第2回【識者寄稿】「大学への適応における友人関係の重要性
         −高校までとは異なる人間関係をどのように構築するか−」

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プロフィール

谷田川ルミ先生

谷田川 ルミ 先生    芝浦工業大学 工学部 共通学群 准教授

やたがわ・るみ●上智大学大学院総合人間科学研究科教育学専攻満期退学。博士(教育学)。立教大学大学教育開発・支援センター学術調査員を経て現職。専門は教育社会学。高等教育。ジェンダー論。大学生調査の分析を中心に、現代の大学におけるキャリア支援、学生支援について研究している。主要業績として「子ども時代の経験が後年に及ぼす影響−大学生から見る勉学文化の連続性に注目して−」『子ども社会研究』(日本子ども社会学会,2010年)。「戦後日本の大学におけるキャリア支援の歴史的展開」『名古屋高等教育研究』(名古屋高等教育研究センター,2012年)など。

【概要】

 四年制大学進学率が50%を超えるようになり、大学は、特別な学びの場という認識ではなくなりつつある。同時に、大学に「なんとなく」進学してくる学生も増加し、入学後の不適応や中退といった問題が指摘されるようになっている。『第2回大学生の学習・生活実態調査』の結果からも、大学生活にコミットメントできない要因として、授業や教育システム、教員、友人関係などとの関連が確認されている(山田, 2013 p.21)。中でも友人関係は、一見、大学教育の本筋からは距離があるように思えるが、大学生の学生生活の満足度を大きく左右する重要な要因となっている。

 そこで、本分析においては、大学生の大学内の友人関係と大学への適応との関係を明らかにし、大学がなし得る学生支援について考察する。

友だちがいないことのリスク

まず、現在通っている大学から離脱する意向の有無と大学内における友だちの有無(人数)との関連を図1、図2に示した。

大学の中に「話をしたり一緒に遊んだりする友だち」が「いない」と回答している学生は、友だちが「いる」学生よりも、「大学を辞めて大学以外の進路に変更したい」「他の大学に入り直したい」と考える割合が高くなっている。反対に、大学内に複数の友だちがいる学生は大学から離脱する意向を持たない傾向がみられている。

大学内に友だちがいないということは、大学へのコミットメントを弱め、大学から離れる意向を後押しする要因となっているものと考えられる。

図1. 「大学を辞めて大学以外の進路に変更したい」と思う頻度(話をしたりする友人の数[大学内]別)

「大学を辞めて大学以外の進路に変更したい」と思う頻度(話をしたりする友人の数[大学内]別)

図2. 「他の大学に入り直したい」と思う頻度(話をしたりする友人の数[大学内]別)

「他の大学に入り直したい」と思う頻度(話をしたりする友人の数[大学内]別)

また、友だちの存在は授業や学習に対する意識にも影響があるものと思われる。図3をみてみると、友だちが「いない」と回答している学生は、友達が「いる」学生よりも「授業に興味・関心をもてない」と回答している割合が高い傾向がみられている。

大学内に友だちがいない学生は、大学の授業にも関心をもてず、大学から離脱したいという意識を持っている。友だちが多ければいいというわけではないが、友だちがいなくても大学の授業に魅力を感じていれば、大学生活は充実し、大学からの離脱は考えなくなるだろう。しかし、今回の調査の結果からは、大学内に友達がいないということが、大学への適応を阻んでいるという「リスク」があるという側面が浮き彫りとなっている。

図3. 「授業に興味・関心をもてない」と感じる度合い(話をしたりする友人の数[大学内]別)

「授業に興味・関心をもてない」と感じる度合い(話をしたりする友人の数[大学内]別)
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大学への着地は友だちの存在がカギとなっている

次に、大学満足度と大学における友人関係についてみてみよう。大学生活の総合的な満足度は、「大学内に話をしたり遊んだりする友だち」が複数存在するほど「満足」と回答する割合が顕著に高くなっている(図4)。また、大学内に友だちが多くいる学生ほど、「今の大学に入学して成長したと思う」と感じている割合も高くなっている(図5)。

大学に友だちのネットワークを持っている学生は大学生活に満足し、成長しているという実感を持っている。大学の中において、共に学び、遊び、会話を交わす相手がたくさんいるということは、大学生にとっては我々が思う以上に大きな意味を持っている。大学生活への適応は、大学の中において良好な人間関係のネットワークができるかどうかが重要なカギとなっているものと考えられる。

図4. 総合的な大学満足度(話をしたりする友人の数[大学内]別)

総合的な大学満足度(話をしたりする友人の数[大学内]別)

注)「判断できない」は省略している。

図5.  今の大学での成長実感(話をしたりする友人の数[大学内]別)

今の大学での成長実感(話をしたりする友人の数[大学内]別)
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初年次における支援の可能性

では、現代の大学生たちは、いつどのようなところで友だちと出会っているのだろうか。 表1に「大学の友だちと知り合ったきっかけ」についての回答結果を示した。それによると、大学の友だちと知り合うきっかけとして最も多いのは「1年生のときの授業」となっており、次いで「部・サークル」「入学後のオリエンテーション」と続いている。つまり、大学の友だちと知り合うタイミングは、大学に入学してすぐの時期であるということが分かる。

表1.  大学の友だちと知り合ったきっかけ(学年別)

大学の友だちと知り合ったきっかけ(学年別)

注1)回答は複数回答
 注2)水色は全体値よりも5ポイント以上の差があるセル。
    ピンクは全体値よりも10ポイント以上の差があるセル

また、3、4年生に注目してみると、やはり「1年生のときの授業」が最も多い回答となっており、「部・サークル」「入学後のオリエンテーション」も4年間を通じて高い割合を示している。1年生の時に出会った友だちは、3、4年生になっても付き合いが続いており、1年生の時に築いた友人関係は、その後の大学生活を通して継続しているという様子がうかがえる。

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高校までとは異なる人間関係をどう構築するか

筆者が、1年生対象の大人数の講義形式の授業を担当する際、よく学生から出される要望として、「授業の中でディスカッションがあると助かる」というものがある。担当している科目が教職の資格関連科目ということもあるが、当の学生に理由を聞くと「同じ目標を持っている仲間が欲しいが、大学のようなそれぞれが自由に行動する場所では、知り合う機会は授業くらいしかない」ということであった。講義の前後に周囲の学生に声をかければ済む話ではないかと思うのだが、お互いに次の授業への移動に忙しく、話しかけるタイミングを逃したまま、日々が過ぎていってしまうのだという。

考えてみれば、高校までの友だちづくりと大学での友達づくりとでは、チャンスも関係を構築するための時間もかなり異なっている。高校まではクラス単位での学校生活となるため、クラスの中で十分な時間を使って友だちとの関係を深めることができるが、大学では時間的にも空間的にも自由度が高まるぶん、友だちとの出会いの場も関係を深める時間も限定的となってくる。

大学進学率が50%を超え、以前とは異なる多様なタイプの学生が大学生となる現在において、「友だち」が大学への適応や学習への意欲に少なからず影響があるならば、高校までとは異なる大学での人間関係の構築の機会をどう作るかについても考える必要があるのかもしれない。

「きっかけ」としてのプログラム、あとは学生自身が自由に交流できる「場」を用意する

とはいっても、大学が学生の友だちづくりまでお膳立てすることは、「主体性」が問われている昨今においては得策ではないものと思われる。しかし、入学時に新入生同士が交流できるようなプログラムを増やしたり、初年次の講義にグループワークを取り入れたりすることは、十分に可能な支援策といえるだろう。出会いの「きっかけ」としてのプログラムを準備し、あとは学生が自由に交流し、ともに学ぶことのできる「場」を用意する。例えば、最近、図書館などに設置され、注目されているラーニング・コモンズのような学生の交流の場を大学内の様々なスペースに用意するということも大学にできることの一つであると思われる。

いつも一緒の教室で生活していた高校生までの親密な友人関係から、大学という自由度の高い空間での友人関係の構築は、様々な背景の人々との付き合いが求められる社会人となってからの人間関係への移行期間という点でも重要な意味を持つ。

学生の大学への適応には「友だち」の存在が大きな意味を持っている。大学という場が大学生たちにとって、高校〜大学〜社会へと向けた人間関係の構築を模索する空間として機能することで、大学における生活と学習にも好影響をもたらすことが可能になるものと考えられる。

〈参考文献〉
 ・山田剛史 「現代学生の『移動』問題−在学中に進路変更を希望する学生の実態と背景」
   『第2回大学生の学習・生活実態調査報告書』ベネッセ教育総合研究所,pp.20-21.
 ・浜嶋幸司・谷田川ルミ「大学生活の充実度分析」『バブル崩壊後の学生の変容と現代学生像』
   全国大学生活協同組合連合会,2012,pp.48-66.

[END]

2013年6月17日 掲載

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