テクノロジーとオーダーメイド教育が、
障がいを持つ子どもの学びの意欲を生む

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 適切なニーズの把握と社会のレディネス

今、障がい者に光明を与えるテクノロジーが次々と登場している。特にこの2~3年の進化が著しい。筆者が審査員をしているJames Dyson Awardでも表彰された、自分の意志だけで動かすことができる筋電義手(通常は150万円以上する)をわずか数万円で実現する「handiii」という技術や、脊椎損傷で立てない人を立った姿勢で移動可能にする「Qolo」という機器などがそうだ。

デザイン性に優れた筋電義手handiii

立ったまま移動できる支援機器Qolo

外から見ただけではわからない学習障がいとしてディスレクシア(詳細は次ページの囲み記事を参照)や自閉症がある。こうした人たちもタブレットを利用して文章を読んだり、会話をしたりする流れが加速している。山口氏は現在、「Talkitt」という技術に注目しているという。コンピュータが、発声障がいを抱える一人ひとりの喋り方の特性を学習し、音声認識することで、文字や合成音声に変換してくれる技術だ。

「脳性まひの子どもたちの中には、特徴的な声の子どもがいます。いつも話をしている我々は何を伝えたいのかわかるのですが、彼らの声を初めて聞く人がコミュニケーションをとるのは難しいです。そういった子どもがこのツールを使えば、道ですれ違った人々とコミュニケーションがとれ、社会に出られる可能性が広がります。テクノロジーはニーズに合えば、未来の可能性を広げてくれるものです」

他方、山口氏はITツールの課題についても語ってくれた。

「現状、障害を持つ人はITツールを手に入れるまでのプロセスがすごく大変です。申請して審査が通るまでの期間が長く、その後補助金が出てから購入するのですが、その価格は高いです。さらに、せっかく購入したのに実際にはうまく使えず、結局、埃をかぶっているケースもあります」

そんな中でもiPadに代表されるタブレットは投資効果が高いと山口氏はいう。

「タブレットは廉価になってきて、手に入れやすくなりました。さらに、数多くの高機能なアプリがオールインワンで入っています」

特別支援学校の生徒たちが社会に出ることを考えた時、もうひとつ課題となるのが、職場に学校と同じようなテクノロジーを使える環境があるかどうかだ。

「職場に学校で使っていたツールがなかったら、彼らはどうするだろうか、どう自己実現できるか考えます。今使っているツールが社会に出た時にあるかどうかは、社会の問題です。出口を考えながらツールを考えなければなりません。どこでもツールを使える環境になればいいのですが」

このITツールの環境面については、社会が良い方向に動きつつある。

「2013年の6月に障がい者差別解消法という新しい法律ができました。また、2014年の1月に日本は国連の障がい者権利条約の140ヵ国目の批准をしました。具体的には、2016年4月から学校はテクノロジー活用などの合理的な配慮をしなければならず、環境を整える義務が課されます。学校だけではなく、公的な機関はすべて対象です。一方で、子どもたちにとってどのようなツールが必要なのか、合理的な配慮を把握するには、積み上げられた事例が必要です。多くの事例は、子どもたちの未来を開けるのではないでしょうか。実際に法律が施行されるのは2016年ですが、私たちはただ待っているのではいけません。目の前に困っている子どもたちが大勢いますから」と山口氏は語った。

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