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学会発表報告「外国にルーツを持つ子どもが日本語で学ぶ力を身につける『日本語×教科』デジタル教材開発をめざした試み」日本語教育学会 2023年度秋季大会@山形テルサ

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1. はじめに

日本語教育学会 2023年度秋季大会(山形市にて開催)の交流ひろばにて、ベネッセ教育総合研究所学習科学研究室主任研究員の小野塚若菜、森下みゆきが発表を行いました。以下、その内容を簡単にご紹介します。

2. 研究の背景

日本語指導が必要な児童・生徒数は約6万人、2年間で14%ほど増加しており(文科省、令和3年度調査)、今後も少子高齢化・人材不足が進む中、増えることが予想されます。外国にルーツをもつ子どもは,日常会話に問題がなくなってからも在籍学年の学習内容と実際に理解できる内容のレベルにギャップがあることが多く、学習が難化する小学校高学年から中学校で課題が顕著になります。一方、指導・支援にあたる教員、日本語指導者は、教科指導と日本語指導の双方に通じているとは限らず、また対象となる子どもが少ない散在地域では,必ずしも支援者や専門家の確保ができていない状況があります。この課題に対して、教科の専門性、日本語の専門性が融合された日本語×教科のデジタル教材の開発が解決策のひとつとなりうるのではないかと考えています。

3. 目的

外国にルーツを持つ子どもの日本語学習と教科学習を支援し、「日本語で自ら学ぶ力」を身につけることができるデジタル教材開発を目指しています(図を参照)。学習者(日本語のレベル、母語での既習・未習状況、教科内容の理解度等)にあわせた個別対応ができること、既に多くの学校でICT機器が支援に活用されていること、散在地域を含む日本全国において指導・支援を広げやすいことから、デジタル教材であることが重要であると考えています。今回の研究発表は、支援現場の見学やインタビューをもとに作成した教材素案(数学での展開案)に基づいて、教材のあり方を検討・改善することを目的としています。

4. 教材素案の作成方法とポイント

教材素案は、中学校1年生の数学「正負の数」の単元(の一部)について作成をしました。作成までの過程と教材素案のポイントは、以下となります。

<教材素案作成までの過程>

教材素案立案にあたって、支援現場(学校、校外教室)の見学や実際に指導にあたられている先生方、支援者の方々へのインタビューを実施、また、現在大学生となった当事者,専門家からお話を伺いました。そうして作成した教材素案をもとに、外国にルーツを持つ子どもの指導経験者(数学ご専門)である先生と吟味検討を重ねました。

【ご協力いただいた方々】
公立中学校夜間学級(1校)、公立中学校国際学級(1校)、教育委員会(3自治体)、支援団体・NPO(4団体)、支援にあたる方々(NPOスタッフ、学校の先生方、日本語教育専門家)、現在大学生になった当事者

<教材素案のポイント>

作成した教材素案のポイントは、以下、3点となります。

①扱う教科の学習内容の精選
・教科書のすべてを学習する教材ではなく、日本語のレベルにあわせながら、該当単元の重要な部分(例 プラス・マイナス、基準の概念理解など)を中心に精選しました。

②単元理解の肝となる『概念』導入の際の工夫
・日本語ですべてを説明しようとせず、身近な具体物(例 温度計)や図、数字、アニメーションなどを用いて、できるだけ直観的な理解につながる表現を用いるよう工夫しました。
例)概念理解に関わって重要な部分以外のハードルは下げる(例えば.富士山の高さ3776mではなく、山の高さ300mなど理解しやすいものに変える)

③指示文等の日本語レベルの調整
・学習者の日本語レベルにあわせて、指示文等にはシンプルな表現を使用しました。
・数学の学習用語など、理解がすぐにはできなくても取り扱う必要があることば(例 正の数、負の数)はふりがな、説明をつけて扱うものとしました。

5. 交流ひろばでの実践者・研究者からの声

当日会場では多くの実践者、研究者の方に参加いただき、ご質問やご意見、ご助言をいただきました。以下、いただいた声の一部となります。

  • 具体物からの概念につなげていくのがわかりやすい(ex.温度計から数直線へ)
  • 抜けている学習内容に、戻れるような機能をもたせることが重要で望まれる
  • (数学だけでなく)他教科への展開はどうなりそうか
  • (教材は)外国にルーツをもつ子どもに限らず学習内容の理解に課題がある場合にも使えそう

また、実際にどのように使うのか、いつからこの教材は使えるようになるのか、といった声も多くいただき、日本語×教科のデジタル教材への期待を感じる機会ともなりました。いただいたご意見等をもとに、教材素案を改善するとともに、他の教科での教材展開案の検討につなげていきたいと考えています。

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