打ち込めるものを見つけて、そこに突き進むことが、一生の自信につながる
クラーク記念国際高等学校

子どもたちの学びのあり方は多種多様であり、魅力的な理念やカリキュラムも多くあります。しかし、さまざまな制約からそのすべてを体験すること、そして選ぶことは難しいものです。

そこで本コーナーでは、それらの学びの現場における意図や問題意識に触れることで、私たち大人が子どもたちにどのような学びや、学ぶ環境を提供できるのかを考えていきます。

世界的な社会や経済のグローバル化、そして国内での少子高齢化と人口減少が進む今日において、グローバル人材の育成は産官学連携でも取り組まれる大きな課題の1つとなっている。企業に限らずNPOや研究機関等においても、グローバルな活躍以前に採用の段階からグローバルな競争がはじまっている。

グローバル人材育成のために、学校にはどのようなことが求められるのか。また、学校は何を成し得るのか。

各方面で活躍する卒業生を輩出しているクラーク記念国際高等学校の実践について、校長の三浦雄一郎氏と東京キャンパスの小泉潤キャンパス長にお話を伺った。

広域通信制ならではの全国に広がるキャンパスで柔軟な学習体制を実現


大自然に恵まれた北海道深川市にあるクラーク本校

クラーク記念国際高等学校は、1992年に「挑戦と創造の教育」をモットーとする学校法人創志学園(本部:兵庫県神戸市 理事長:大橋博)が広域通信制の男女共学校として設立した。北海道深川市に本校を置き、北海道開拓の父ともいわれるウィリアム・スミス・クラーク博士の"Boys Be Ambitious"の精神を受け継ぐとクラーク家から認められている世界唯一の教育機関である。

広域通信制とは、全国から入学可能な通信制のことをいい、同校は当時6校目、25年ぶりに国内で認可された高等学校となる。「通信制」とは言うものの、同校は通学が中心であり「通信でも学べる」、という表現が適切だ。本校を含めてサテライトキャンパスは国内に64ヶ所、オーストラリアにも2カ所あり、通信制ならではの柔軟なカリキュラムと通学スタイルで、全日制高校等と比べ、生徒のライフスタイルに合わせて高校生活が送れるシステムとなっている。

全日制と同様に制服を着て毎日通学する生徒もいれば、学外でのアスリート活動や芸能活動と両立させる生徒もいる。98年に単位制の認定を受けたことにより、学年に関係なく転編入もしやすくなった。

生徒数は開校時の605人から、現在の在籍生徒数は1万1000人以上、卒業生は5万人以上におよぶ。

好きで打ち込めるものを見つけることが、生涯続く心の糧に


何度も挫折を繰り返したという三浦校長

92年の開校以来、同校の校長を務めているのは、2013年に3度目のエベレスト登頂で80歳の世界最高年齢記録をもつ三浦雄一郎氏である。

校長を引き受けた経緯について、三浦校長はこう話す。「80年代、日本に10万人以上の不登校児がいました。創志学園の大橋理事長から、『いじめや中退問題をなんとかしたい、子どもが辞めたくならない高校をつくる』と聞いて共感しましたが、校長就任の打診を受けたときには、そんな資格はありませんと断ったんです。けれど『校長室はつくらないので、やりたいことをやって、その背中を見せてください。三浦さんの生き方が生徒のやる気の力になるはずだから』と言われました。」

当初「校長になる資格はない」と断った理由は、三浦校長自身が学校教育になじめなかったことにも起因する。小学校4年で結核を患い長期入院、中学受験に失敗して引きこもった経験もある。高校時代は勉強よりスキーや登山に明け暮れた。「運良く受かった」という北海道大学獣医学部を卒業後、研究を続けて教授への道が目の前にありながら、スキーの道を選択、退職した。

自身の経験から、学校に通うより好きで打ち込めるものを見つけることが、生涯を通じて心の糧につながるとの確信を持っていた。結婚後、自身の3人の子育てにおいては「学校なんか休め、こんなに天気が良くていい雪があるんだから」と、進級できる出席日数ぎりぎりまで学校を休ませ、スキーや登山をさせる家庭教育をしてきた。

このような経験があるから、生徒たちを自身の挫折体験を話しながら励ます。「子どもの頃に我を忘れて夢中で遊ぶのが大事なんです。それと同じ感覚で夢中になれるものを見つけたら、あとは突き詰めればいい。途中でつまずいても、何度でもやり直しはできます。僕だって何度も挫折を繰り返しています。60歳で目標を見失ったときは、85kgのメタボになって血圧は200、家の裏山も登れなくなった。そこから鍛え直して世界記録に挑戦したんですから。」


記念式典で開校の挨拶をする三浦校長

こうして「校長室がない高校の校長」として就任。「一人ひとりが好きなことを思いきり学べる学校」を合い言葉に、自信をなくしている生徒が再生できるよう、既存の高校にない発想で、新しい学校を目指すことになった。

成果はすぐに現れた。

開校間もない頃、中学にはほとんど通えなかった生徒が、3年間無遅刻無欠席で卒業式を迎えたのだ。両親はもちろん、招待した小中学校時代の担任の先生たちもその生徒の変化にとても驚かれたそうだ。

グローバル人材とは、特定領域のプロフェッショナルであること


エベレスト最高齢登頂者の記録も持つ

エベレスト登頂以前の三浦校長は、山頂から直滑降という信じがたいジャンルでの世界記録保持者だ。「世界最速で富士山直滑降記録(1966年)」に始まり、「エベレストサウスコル8000mからの直滑降記録(1970年)」のドキュメンタリー映像では、アカデミー賞記録映画部門受賞、世界七大陸すべての最高峰から直滑降を成功させた。

グローバルに活躍する人材に対する三浦校長の考えは「特定の領域でプロフェッショナルであること」と明確だ。そして、プロフェッショナルとなるために必要なことは、基礎学力をつけること、好きなことを見つけること、好きなことに打ち込める環境があること等だという。

同校の卒業生は、いわゆる難関の国公立・私立大学への合格者だけでなく、オリンピックに4回出場した銀メダリストをはじめ、今も活躍中のアスリートやF1ドライバー、カメラマン、俳優、声優、芸能人等多様だ。

わかるところまで戻り、やり直す


ネイティブ教員による実践的な英語授業も。

基礎学力を養うにあたって、同校では入学時に「基礎学力オールチェック」を実施する。1教科につき25~30の細かい単元に分かれたチェックシートで生徒の学力レベルを把握し、各自の個別指導方針を立てる。

不得意教科は徹底してさかのぼって学習し直すことによって、「授業についていけない」という不安はほとんど生まれない。「わかるようになって楽しい」「できるようになったからもっと頑張れる」という学びの循環は、生徒の自信につながっていく。

学習ではなく学校生活そのものに慣れることから始めたい生徒には、少人数専用の教室で教師に個別相談しながら自分のペースに合わせて学校生活を送ることのできる「オンリーワンクラス」もある。登校に慣れたら全日型のコースに変更することが可能だ。転校をしなくても、同校の中にいながら安心して少しずつ自信をつけていくことができる。

さまざまな体験を通して好きなことを見つける

三浦校長は、「好きなことを見つけるには、さまざまなことを体験する必要がある」という。

通信制のメリットを生かし、多彩なコース、柔軟な通学スタイルが選択できるのは、同校の最大の特色だ。


表現を多角的に学ぶパフォーマンスコース

東京キャンパスを例にとると、全日型の総合進学コースをはじめ、語学に力を入れるIPC国際コース、パフォーマンスコース、ペット生命科学コース、保育・福祉コース、食物栄養コース、美術デザインコース等から選択できる。基本教科をおさえながら、各コースの専門分野となる教科や実習のゼミ授業を選択して各自のカリキュラムを組む。ゼミ授業は、化学、心理学、統計学、ダンス、和太鼓、フランス語、保育実習、キッチン、IT等、20講座に及ぶ。

提携先であるオーストラリア公立職業訓練専門学校内にあるオーストラリアキャンパスでは、英語を学びながら観光事業、スポーツ、ダンス、芸術やデザイン等の職種を体験できる。また、ニュージーランドでは、系列大学の環境学や国際関係学の授業にも参加でき、現地の小学校、高校訪問等、アクティビティも豊富だ。

ここでも通信制の強みを活かし、長期留学した場合でも、所定の課題とスクーリングをこなせば3年間で卒業できるため、生徒が積極的に海外プログラムに参加しやすい環境が整っている。


三浦校長が同行し、生徒が世界最年少登頂記録を樹立

小泉先生は同校の教育環境のメリットについてこう話す。「よく、高校なのにまるで専門学校のようなカリキュラムですねと言われます。専門学校は一度入学して『やっぱり違う』と思っても簡単に進路変更できませんが、本校では興味のあるコースやゼミをいくらでも変更して体験することができる。進路を決定する大事な高校時代にいろんな可能性を試して好きなことを見つけられる環境が一番いいところだと思います。ただ、見つけたら一時期とことんやってみることも大事です。」

同校で人生が180度変わるような体験をした生徒もいる。三浦校長の話を聞いて、車椅子に座ったまま富士山登山に一緒に挑戦した生徒。不登校だった16歳の生徒が「ヒマラヤに行きたいです」と三浦校長の登山に同行し、世界最年少登頂記録を樹立するという快挙を成し遂げたこともあった。彼はその後、同校の留学体験を経て、ネパールの大学に入学して現地カメラマンとして活躍しているという。

 

生徒が教師を選ぶことで、教師も意欲的に


学習面だけでなく精神面での支援もめざす教員勉強会

同校では、教師全員が学習心理支援カウンセラーの資格を有している。

年間70時間の研修受講が義務付けられており、臨床心理士の専門家をはじめ、同校のベテラン教師が生徒指導のノウハウを伝授している。

生徒が担任教師を選べる「パーソナルティーチャー制度」も同校ならではのものだ。

「教師と生徒との相性の良し悪しはある。相性が悪いと成績まで落ちてしまう」というのが三浦校長自身の経験もふまえた考えだ。

この制度を活用すると、生徒が授業に対して能動的になるだけでなく、教師も自分を選んでくれた生徒の期待に応えたいと意欲が湧くそうだ。


小泉潤東京キャンパス長

それだけでなく、こうした制度が「選択するとはどういうことかを生徒が考えるいい機会になっています」と小泉先生は話す。

入学時には、やさしく受け入れてくれそうな担任を選ぶ生徒たちも、翌年には「自分のだらしない面を直したいから、厳しく指導してくれる先生に」というように、自らを成長させてくれそうな担任を選択する変化が起こる。教師に対する肯定的な印象を持っているためか、卒業後に教員免許を取得して「クラークの先生になりたい」と応募してくるケースも毎年あるという。

同校では、生徒と保護者に対して定期的にアンケートを実施して教師評価についても求めており、2014年保護者アンケートでは、教師信頼度が96.0%という高い評価を得ている。

夢を応援することで、気持ちがひとつになる


三浦校長も大きな力をもらったという生徒たちによる壮行会

三浦校長は自身を振り返りながら「人間は気づいたときがスタートで、遅すぎることはない。いつからでも、いくらでもやり直しができる」と話す。

このような力強いメッセージで生徒を励ましながら、校長自身も開校以来、生徒たちの成長を励みに自らを成長させてきた。裏山を一歩ずつ登る練習からリスタートして、エベレストの世界最高齢登頂者を目指した。そして、その姿が今度は生徒たちの励みになっている。

校長がエベレストへ向かう際、生徒たちが自主的に壮行会準備を進め、パフォーマンスコースの生徒たちがオリジナル激励パフォーマンスを披露して盛り上げたという。そして世界記録達成の登頂の瞬間、全キャンパスでネットを通した映像が配信され、リアルタイムに生徒と教師とで感動を共有した。

キャンパスが全国に広がりながらも、生徒たちの気持ちがひとつになった瞬間でもある。

 

初めての北海道スクーリングで生徒と農業体験に参加する三浦校長(1992年)

世界で通用するほどに専門性を高めようとすると、目指すものも、そこに到達するための方法も個別性が高くなる。こうした状況では、動機付けと環境整備という支援が重要性を増すのかもしれない。

もちろん、在学中に自身の今後の方向性を見出す生徒はごく一部かもしれないが、このような環境に身を置いた経験自体が多くの生徒にとって、その後の糧となるだろう。

クラーク記念国際高校では、カリスマともいえる三浦校長と生徒、教師と生徒がお互いの存在や思いを励みに、自らの動機付けを強化しているように見える。

しかしこうした動機付けは、本来学校現場においてのみ行われるべきものではなく、社会に出てからも広く行われるべきではないだろうか。頑張っている人、応援してくれる人の声を励みに自分も前進していけるような関係性を築くことの重要性を、あらためて考えさせられた。

【企画制作】(株)エデュテイメントプラネット 柳田善弘、羽塚 順子
【取材協力】クラーク国際記念高等学校

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