高等教育研究室

ベネッセのオピニオン

第124回 「何となく進学」した学生が
授業に興味関心をもつきっかけとは?
―職業「で」学ぶ機会がもつ学びの触発性への着目―

2017年11月16日 掲載
研究員 佐藤 昭宏

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キャリア教育 専門学校生 授業研究

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 言われたことはやるが、自分から学ぶ意欲に欠ける――。そんな学生をどうエンカレッジするかは、学校種を超えた共通課題だ。ベネッセ教育総合研究所が2016年に実施した「第3回 大学生の学習・生活実態調査報告書」では、大学において、主体的な参加が必要な教育機会が増加し、授業に真面目に取り組む学生が増えている。その一方で、学びに向かう姿勢はより受け身になり、教員・保護者への依存傾向が強まっているという結果が明らかになった。こうした結果は、しばしば「大学の高校化」といった言葉でネガティブに解釈されることもある。しかし、大学がより「教わる場」としての価値を高めていることは悲観的な面だけではないだろう。ポイントは、「教わることで、(さらに)より深く学べる・学びたい」状態になっているか、である。ではどういった教育機会や環境があれば、学生の学びを触発することができるのだろうか。今回は、大学と同じ高等教育機関に属しながら、職業と強い結びつきをもった独自の教育を行っている専門学校(専修学校専門課程)の教育に着目し、そのヒントを探ってみたい。具体的には、2017年の1月から3月上旬に行った「専門学校生の学習と生活に関する実態調査」のデータ*1 を素材に、どのような教育機会や環境が、学生の学びを触発するかを考える。

 専門学校は、一般的に高校時代に学習面において評価が高くなかった学生や大学に進学できなかった学生に対して「短期間で特定の職業と関連する知識・技能や資格を習得させ、社会人として世に送り出す」職業人養成機関として見なされてきた。しかしながら同調査のリリースで発信したように、実際には、職業「で」学ぶ機会を通じて、学生が学ぶことへの興味関心を取り戻すきっかけや、大学生と比べても遜色のない学習や課題に取り組む時間を課することで、社会で学び続けていくために必要な土台形成を行うなど、社会的に重要な役割を担っている。

 しかしながら、こうした専門学校教育を通じた「学びへの触発」は、「高校までの教育と異なり、自分の好きなことを学ぶのだから、興味関心が高くなって当然」という見方で捉えられてしまうことも少なくない。そこで以下では、「学びへの触発」の契機を、本人要因と(専門学校の)教育要因に区別し、特に後者に焦点を当てた分析を行う。具体的には、専門学校の学びの中身やそこで得られる成果以外の理由で進学した学生(「何となく進学」した学生)が、専門学校の教育を通じてどのように学びに触発されたのかをみていく。

「何となく進学」した学生はどれくらいいるのか?

 そもそも「何となく進学」するような学生は専門学校の中にどれくらい存在しているのだろうか。進学者全体における「何となく進学」の実態を把握するために、まず学生のタイプ分けを行った。タイプ分けには植上(2011)の「進学要求」の区分を参考にした。その内容をまとめたものが図1である。植上(2011)は専門学校を含めた高等教育機関への進学要求を、「手段的側面」と「目的的側面」に区分した上で、各側面をさらに「形式」と「内容」の観点に分けて捉えている。本稿の分析対象は、学びの中身や成果に対して明確な進学理由をもたずに進学した学生であるため、①「学歴や資格を取得したい」、②「専門的な知識・技能を身につけたい」、④「好きなことを学びたい」といった、学びの中身や成果に関わる理由をいずれももち合わせていない学生を抽出し、このタイプを「なんとなく進学」した学生とした。なお、目的的側面の形式面「③業界で名の通った学校で学びたい(ブランド志向)」は、専門学校生の進学要求としてはごく少数のため対象抽出の軸から除外している。図1は、今回の分析対象の学生(「①②④以外」の部分)と進学理由の関係を示したベン図、表1は、各進学理由の組合せにより抽出された学生数とその度数分布を示したものである。

図1 専門学校生の進学要求区分(植上2011)と分析対象の関係

図1 専門学校生の進学要求区分(植上2011)と分析対象の関係

表1 進学理由を軸とした専門学校生の類型化とその分布

表1 進学理由を軸とした専門学校生の類型化とその分布

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 結果をみると(表1)最も比率が高かったのは、①②④すべての理由を選択した学生で25.5%と、約4人に1人を占める。また、①②④のいずれかの理由を選択した学生の比率を加えた合計は86.1%にのぼる。以上のことから、基本的には、多くの専門学校生が、入学時点で、職業や趣味について何かしら学びたい内容や関連する資格等の取得をもって、進学している様子がうかがえる。

 その上で、本稿の分析対象である、①②④のいずれの理由も選択しなかった学生が、どれくらい存在しているかその比率を確認したところ13.9%であった。比率自体はそれほど高くはないものの、一定層の学生が、「何となく進学」している実態がうかがえる。またこうした「何となく進学」した学生は、他のタイプの学生と比べ、高校時代の成績や高校時代の授業に対する興味関心が低いなどの特徴が確認された(図版割愛)。

授業への興味関心の有無と教育機会の関係

 では、こうした「何となく進学」生は、進学後の学びにどれくらい興味関心をもって取り組んでいるのだろうか。図2は、表1で分類した進学理由のタイプ別に専門学校の授業に対する興味関心を調べた結果である。

図2:進学理由のタイプ別 授業に興味関心があるの%

図2:進学理由のタイプ別 授業に興味関心があるの%

※数値は、「専門学校の授業に興味関心がある」の%。「専門学校の授業に関心・興味がもてない」の項目に「1.とてもあてはまる」「2.まああてはまる」と回答したものを「0」、「3.あまりあてはまらない」「4.まったくあてはまらない」と回答したものを「1」に逆転リコードした変数を、「専門学校の授業に興味関心がある」の代理変数として分析に使用した。


 「何となく進学」した学生の約半数が、「何かしら学びに関する進学理由をもって進学」した学生の7割が専門学校での授業に対して興味関心をもっていることが確認された。「何となく進学」した学生の半数が授業に興味関心をもっているという結果自体を高いとみるか、低いとみるかの解釈は、読み手の立場によっても異なるだろうが、本稿の関心は興味関心の高低ではない。ここでの関心はどのような教育機会や経験が、授業への興味関心の高低につながっているのか、である。そこで次に教育機会の頻度別に授業への興味関心の高低を確認するためクロス分析を行った。その結果が表2である。ここでは比較対象として、学びに関する進学理由をもっていた学生の結果も掲載している。

表2 教育機会の頻度別 授業に興味関心があるの%(進学理由タイプ別)

表2  教育機会の頻度別 授業に興味関心をもてているの% (進学理由タイプ別)

※授業への興味関心の%が高い項目上位5つに赤囲みを、教育機会の頻度により授業への興味関心のポイント差が大きかった項目上位5つに緑の色づけを、教育機会の頻度が高いほど、授業への興味関心が低い項目(3ポイント以上の差)に青の色づけをしている。

※上記画像をクリックすると拡大します。


 まず、教育機会の頻度によって授業への興味関心がどれくらい異なるかを確認してみよう。「何となく進学」生において、特にポイント差が大きかった項目をみてみると、「10.教員の自由な意見や見解にふれる」(12.6ポイント差)で最もポイント差が大きく、次いで「9.学んでいる内容と将来の関わりについて考える」(8.3ポイント差)、「14. 技能やスキルを高めるために繰り返し練習する」(6.9ポイント差)、「13.自分の考えを徹底して深める」(6.5ポイント差)となっている。こうした教育機会は、その頻度によって学生の授業への興味関心が良くも悪くも左右する、といえそうだ。

 この教育効果は、「何となく進学」生に限って確認されることなのだろうか。そこでこれらの項目が、「何かしら学びに関する進学理由をもっていた」学生の授業への興味関心に与える効果をみてみたところ、「何となく進学」生と同様、いずれの項目も他の項目と比べ、授業への興味関心に対してより大きな影響を与えていることが確認された。以上のことから、「10.教員の自由な意見や見解にふれる」「9.学んでいる内容と将来の関わりについて考える」「14. 技能やスキルを高めるために繰り返し練習する」といった機会は、進学理由をもっていた学生だけでなく、すべての学生の授業への興味関心を左右しやすい教育機会といえる。

 では、「何となく進学」生に特に効果がみられるような教育機会はないのだろうか。学びに関する進学理由があった学生との違いをみると、「1.グループワークなどの共同作業をする」「4.上級生や下級生とやりとりしながら学ぶ」「18.教員から何かの仕事や役割を任される」の項目において、異なる効果が確認された。「1.グループワークなどの共同作業をする」や「18.教員から何かの仕事や役割を任される」機会が多いことは、「何となく進学した」学生の授業への興味関心をむしろ低下させる、あるいはほとんど効果がみられないが、進学理由をもって進学した学生は、頻度の多さがポジティブな効果へと結びついている。一方、「4.上級生や下級生とやりとりしながら学ぶ」機会が多いことは、「何となく進学」生の授業への興味関心にポジティブな効果があるが、進学理由をもって進学した学生に対してはほとんど効果がみられなかった。その他、「19.高校や中学までの学習内容を復習する」機会の多さは、進学理由にかかわらず授業への興味関心に対してネガティブな効果があるようだ。一般的に、高校や中学校の学習内容の復習は、入学前や入学直後の導入期に確保されることが多いが、こうした機会を多く取り入れる場合は、学ぶ目的の位置づけ方や、「学び方」の工夫が重要になりそうだ。

授業に対する興味関心を高める教育機会とは?

 最後に、専門学校における授業への興味関心の有無を従属変数とするロジスティック回帰分析を行い、これまで取り上げてきた教育機会と授業への興味関心の因果関係を確認する。図3はその分析結果をグラフ化したものである。分析モデルに女性ダミー、資格系ダミー(専門領域に関するダミー)、高校時代の成績を投入しているのは、これらの変数が進学後の授業に対する興味関心と関連する可能性があるためである。例えば、ファッションやネイルなど趣味的な学習を含む「非資格系」において、あるいは女性や高校時代の成績が高いほど、より授業への興味関心を持ちやすい可能性があるが、それらの効果を統制した上で、教育機会が授業への興味関心に与える影響の大きさを確認する。分析に使用した変数や記述統計量、検定結果等の詳細については、注釈にまとめているので確認いただきたい*2 


図3 「何となく進学」生の授業への興味関心の規定要因
  (一般化線型モデルを用いた2項ロジスティック回帰分析)

図3 「何となく進学」生の授業への興味関心の規定要因

従属変数:専門学校の授業への興味関心ダミー 「あり」≒1、「なし」=0
**p<0.01 *p<0.05 + p<0.1

※上記画像をクリックすると拡大します。


 分析結果のポイントは以下の通り。

  • ●教員の自由な意見や見解にふれる機会が1ポイント高いと、授業への興味関心が1.239倍高い傾向がある
  • ●学んでいる内容と将来の関わりについて考える機会が1ポイント高いと、授業への興味関心が1.238倍高い傾向がある
  • ●技能やスキルを高めるために繰り返し練習する機会が1ポイント高いと、授業への興味関心が1.172倍高い傾向がある
  • ●上級生や下級生とやりとりしながら学ぶ機会が1ポイント高いと、授業への興味関心が 1.121倍高い傾向がある
  • ●「高校や中学までの学習内容を復習する」機会が1ポイント高いと、授業への興味関心があると0.840倍高い傾向がある(低下する傾向がある)
  • ●「グループワークなどの共同作業をする」機会が1ポイント高いと、授業への興味関心が0.802倍高い傾向がある(低下する傾向がある)

 「なんとなく進学」生に限定した分析において、「教員の自由な意見や見解にふれる」「学んでいる内容と将来の関わりについて考える」「技能やスキルを高めるために繰り返し練習する」などの教育機会の頻度が与える効果は、高校時代の成績の効果を統制しても消えずに残っている点は興味深い。

まとめ

 以上の分析から得られた主な知見は以下の3点である。

 第一に、「教員の自由な意見や見解にふれる機会」が多いほど、専門学校生の学びに対する興味関心は高まりやすい、ということである。教科書にとどまらない、職業世界の「先人」としての教師の実体験に基づく「リアルな語り」(その職業の魅力や厳しさ、向き合い方など)が、職業への接近だけでなく、学びへの興味関心を高める契機にもなっている可能性がある。

 第二に、「学んでいる内容と将来の関わりについて考える機会」がもつ、ポジティブな効果である。専門学校では、一般的に、就きたい職業を決めてから学ぶため、必然的に目の前の学びがどう社会で役立つのかを考えたり、自分は「何者」として社会で働いていきたいのかを考やすい特徴がある。こうした自分と社会の間に学びをおいて、その内容を自分なりに意味づけたり、価値づけたりする機会が、授業への興味関心にもプラスの影響をもたらしているのかもしれない。

第三に、「高校や中学までの学習を復習する」「グループワークなどの共同作業をする」機会が多いほど、学びに対する興味関心が低下しやすい、という知見である。ただしいずれの機会も、専門学校で学ぶ上で重要な教育機会である。よって機会の位置づけや提示の仕方などをより一層工夫する必要がある。例えば、高校や中学校までの復習を、単なる「学び残し」の解消ではなく、職業と基礎的な学習内容を関連させながら、学び直すことの必然性を学生自身が感じられるように、教材や導入を工夫することが考えられる。以上が、本分析から得られた「何となく進学」生の学びを触発、興味関心を高める上でのポイントである。

こうした「何となく進学」生の興味関心を高める契機となる教育機会を探索することは、昨今問題視されている「今一つ学ぶ内容に興味関心がもてない」「将来の目標がない」といった悩みを抱える高校生や大学生が、学びに触発される教育機会や環境を検討していくことと無関係ではないだろう。他の学校種がもつ教育特性や積み重ねてきた知見から学べることも少なくないのではないか。今後は、職業教育だけでなく、職業訓練の領域において蓄積されてきた教育実践にも着目しながら、人が学びに触発されていく多様なプロセスを明らかにしていきたい。

 

<参考文献>

植上一希(2011)「専門学校の教育とキャリア形成  進学・学び・卒業後」、大月書店


<注釈>

*1: この調査は、一般社団法人 全国専門学校教育研究会の協力を得て実施した調査(有意抽出調査)で、専門学校が所属する都道府県の「専門学校進学率」と「その地域にどれくらい仕事があるか(県内GDP)」を軸に地域タイプを区別、地域毎に期待される専門学校の役割等を考慮した上で、調査対象地域を選出、各学校に調査を依頼している。また、サンプルの専門分野別学生数の比率が母集団(文部科学省学校基本調査)の学科別学生数の比率と一致するようにウェイト(重み)の設定を行い、サンプルが母集団の縮図になるよう設定している。調査では服飾家政系の学生が少ししか含まれていなかったため、このウエイトによりその数値がかなり割増しされている点は解釈の際に注意が必要である。

*2:分析に使用した変数、変数の記述統計量、分析結果は以下の通り。

●分析に使用した変数

分析に使用した変数

●変数の記述統計量

変数の記述統計量

●「何となく進学」生の授業への興味関心の規定要因

「何となく進学」生の授業への興味関心の規定要因

 

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著者プロフィール

佐藤 昭宏
さとう あきひろ 

ベネッセ教育総合研究所 研究員

初等中等教育から高等教育分野まで幅広く、子ども・保護者・教員を対象とした実態調査や私教育市場に関する調査研究の設計・分析を担当。近年は大学や専門学校を中心とした高等教育機関や地方自治体の教育委員会との実践研究を通じた教育の質向上に関する調査・研究・開発活動に従事。生涯学習時代における学校教育と職業・社会のつながり方、青年期の主体的なキャリア形成を支援する場のデザインに関心を持っている。
文部科学省「専修学校版デュアル教育推進事業」(2016~)、「職業実践専門課程等を通じた専修学校の質保証・向上の推進事業」(2017~)【受託先:一般社団法人全国専門学校教育研究会】事業推進委員。

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