私は、父親支援の研究に取り組み、日本では数少ない父親支援のNPO法人「ファザーリングジャパン」の顧問も務めています。そうした私には、父親と子育ての関係という観点から、今後の本調査に提起したい問題が3つあります。 1つ目は、「父親とは誰なのか?」です(図7)。
日本における母親・父親像は、以前は固定化されていました(図8)。その最も典型的な例が、母親は家庭にいて子育てをする人であり、父親は外で仕事をして子育てをしない人であるというものです。そうした母親・父親像は、価値観や働き方の変化に伴って大きく変わりつつあり、家族関係は多様化しています。父親像も以前のようには一般化できなくなっていると考えられる中、「父親」に求められる要件とはどのようなものでしょうか。
例えば、生物学的なものなのか、経済的なものなのか、法的なものなのか、精神的なものなのか、あるいは、それらすべての要件を満たすべきなのか、検討する必要があるでしょう。社会の変化は急速に進んでいますから、現在の「父親」の定義が、将来、そのまま通用するという保障はありません。そうした中で行われる長期縦断研究においては、父親とは誰なのかを考える意義は、なおさら大きくなるのではないでしょうか。
2つ目は、「父親の存在と役割は、どのようなものなのか?」です(図9)。
真田研究員による調査概要の説明でも述べられたように、本調査では、子どもの「主となる養育者」「副となる養育者」の2人に回答をお願いしており、組み合わせとしては「主が母親、副が父親である」が圧倒的に多くなりました(図10)。それに対して、「父親が主である」という回答は、わずか0.9%に過ぎません。また、高岡室長の話題提供で示されたデータによれば、母親の約4割が出産を機に仕事をやめており、「仕事を続けたかったが、仕方なく退職した」という人も、16.0%いました。
こうしたデータを見ると、価値観が変わりつつあるとはいえ、固定的な性役割分業意識に基づいた「母親が子育て・父親が仕事」という公式も、依然として残っていることがうかがえます。一方、「イクメン」「ファザーリング」といった言葉が生まれ、父親による子育ての重要性が、社会的に広く認識されるようになっていることも確かです。
そこで、父親は子育ての主体となり得るのか、父親の子育ては家族にどのような影響を及ぼすのかといった、父親の存在と役割についての根源的なテーマと、しっかり向き合う必要があると思います。
私が男性保育士の研究や父親支援の研究に取り組む中では、父親が子育ての主体となり得る可能性は大きく示唆されています。しかし、父親が主体となった子育てが、子どもや母親にどのように影響するのかは、まだはっきりしません。その解明につながるデータを、長期縦断研究である本調査によって得ることができるのではないかと期待しています。
3つ目は、「父親の育児の活性化に何が必要なのか?」です(図11)。
具体的な観点としては、まず、「物理的な時間と場所の確保のために」が考えられます。話題提供では、帰宅時間や子育て時間の問題が取り上げられ、島津教授の指定討論でも、日本の父親の子育て時間がいかに少ないか、国際的な比較によって示されました。また、男性の育児休暇取得率は5%台にとどまっており、その背景には、「取得しようとしても難しい」という事情があると考えられます。つまり、単に父親の意識だけの問題ではなく、社会全体で支援のあり方を検討していく必要があります。
次に、「夫婦間での子育ての共有や実感のために」という観点も大切です。働き方や意識も含め、夫婦のあり方、パートナーシップのあり方を考えていかなければならないと思います。
最後に、「父親自身の育児意識、知識・技術獲得のために」を挙げます。これは、まさに父親支援という視点であり、そうした視点を意識的に社会に根づかせていく必要があるでしょう。
【特集21】赤ちゃんの生活と育ちを追う〜乳幼児の生活と発達に関する縦断研究の挑戦〜
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