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全国大学国語教育学会2023年度第144回島根大会「中学校『書くこと』における教科横断的な思考力の育成―1年生から2年生にかけての授業実践を通して―」

関連タグ: 中学校 言語能力 新学習指導要領 思考力・判断力・表現力 国語

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はじめに

ベネッセ教育総合研究所学習科学研究室研究員の鈴木佑亮・小野塚若菜と明星中学校・高等学校の藤井泉浩先生が,2023年5月27日から28日に行われた全国大学国語教育学会2023年度第144回島根大会において共同発表を行いました。

研究の要旨・目的

著者らはこれまで,小野塚・泰山(2021)が開発した中学校言語能力Can-do statements(以下、Cds)を思考力育成の目標としてとらえたうえで、それを起点とした中学校国語科「書くこと」の授業を2021年4月~2023年3月の2年間継続的に行ってきました。
本発表では,中学1年生から2年生にかけて授業を受けた生徒たちの作文や振り返りの分析を通して、本実践が教科横断的な思考力の目標の達成にどのように貢献したかを考察しました。

概要

〈中1から中2にかけて行った単元の一覧〉

中1から中2にかけて行った単元の内容および単元のねらいとしたCdsは以下の通りです。

>表1:中1から中2にかけて行った単元の一覧(当日発表資料別紙1より抜粋)

〈分析の方法〉

授業を受けた生徒149名の中から6名を抽出し、6つの授業(中1のT2,T4,T5・中2のT1,T2,T4)において、生徒が書いた作文と振り返りシートの記述がどのように変容していったのかを分析しました。
  • 振り返りシートの分析・・・生徒の記述に対応するCdsナンバーを照合することによって、それぞれの生徒の中でどの思考力に対する意識が高まっているのかを考察しました。
  • 作文の分析・・・根拠と自分の考えの書き分けができているか(Cds#11と対応)、根拠として適切な情報を書けているか(Cds#9,#15と対応)、意味づけ(論拠)にあたる内容を書けているか(Cds#15と対応)の3点を分析することで、振り返りで見られた意識が実際に作文へ反映されているかどうかを考察しました。

〈総合考察〉

※生徒ごとの個別の結果については発表資料をご確認ください。(この記事の右上にある「PDFダウンロード」をクリック)

①本実践が教科横断的な思考力の目標の達成にどのように貢献したかの考察
・生徒6名中5名は、最初に相手にわかりやすく伝えようという意識(Cds#18)が向上した。そして、その後あるいは同時に、相手に伝わりやすい文章を書くための方略として、複数の情報を比較したり関係づけたりしながら(Cds#15)、目的に沿って整理したうえで(Cds#6)、必要な情報に焦点化し(Cds#9)、根拠を明確にして考えをまとめる(Cds#11)という意識が向上した。
・生徒6名中5名は、中1のときよりも中2のときの方が、複数の情報を目的に沿って整理するという意識(Cds#6)の向上が見られた。
・生徒6名中2名は、学習内容を教科横断的にとらえようとする意識の向上が見られた。

②副次的な考察
・情報や事象を比較したり関係づけたりしようという意識(Cds#15)が向上しても、適切に意味づけ(論拠)をすることは中学生にとって難易度が高い。
・相手にわかりやすく伝えようという意識(Cds#18)の発達が、文章構成における教師の指導以上の工夫を促す可能性がある。

〈今後の計画〉

2023年4月からは中3になった生徒たちへの授業実践を継続しています。3年間の授業を通して生徒の思考力の発揮がどのように変容してきたのかを明らかにしていきます。

詳細については,以下の資料(全国大学国語教育学会第144回島根大会 大会研究発表要旨集,pp.185-188)をご覧ください。なお、大会当日、一部を訂正した内容を報告しています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtsjs/144/0/144_185/_article/-char/ja

関連研究

1. 本研究において対象となった生徒の,中学1年次の『書くこと』の実践内容を報告した研究発表です。Cdsを“めあて”とした授業設計による,教員と生徒の意識変容に関して考察しています。

藤井泉浩・小野塚若菜・鈴木佑亮(2021).教科横断的な目標としての思考力の育成を目指した中学校『書くこと』の実践 2021年第141回全国大学国語教育学会世田谷大会 大会研究発表要旨集,pp.283-286
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtsjs/141/0/141_283/_article/-char/ja


2. 本研究において対象となった生徒の,中学2年前半の『書くこと』の実践内容を報告した研究発表です。中学2年次のT1,T2を受けた生徒の思考力の発揮にどのような変容が見られたかを考察しています。


鈴木佑亮・小野塚若菜・藤井泉浩(2022).教科横断的な思考力の育成を目指す中学校「書くこと」の授業設計と実践―中学2年生の実践から見えてきたこと―全国大学国語教育学会2022年第143回千葉大会

3. 本研究の実践において目標規準としたCdsの開発・提案を行った研究発表です。学習指導要領においてすべての学習の基盤となるとされている資質能力のひとつに言語能力がありますが,言語能力の側面から思考力全体を整理したフレームワークとしてCdsを開発しました。その開発手続きを説明し,各教科専門家の意見に基づきCdsの位置づけや内容について考察しています。


小野塚若菜・泰山裕(2021).中学校学習指導要領に基づく言語能力Can-do statementsの開発 日本教育工学会2021年秋季全国大会

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